2015年5月19日火曜日

倉吉線リベンジ:後編

「急がば回れ」という諺がある。

慣れぬ近道を通れば、道に迷うなどしてかえって遅くなる。それより、遠くても安全な本道を通る方が、結局早いというのだ。

「急がば回れ瀬田の長橋」に由来するのだが、一般的には「急がば」が前提にあることで、どっちが早いか、目標到達までの時間ばかりが重視されている。

だが、本来急ぐ時ほどリスクを避け、多少遠回りになっても安全で着実な方法を取れという戒めであり、時間の短縮は自体はあまり重要ではない。

急いでいる時ほど、目標に向かって一直線というのが人情だろうし、遠回りする時というのは、たいてい急いでいない時に限られる。

したがって、例え遅くなっても安全確実が肝要で、「結局」の意味するところは、僅かな時間短縮だけではないのである。要は、急ぐのは構わんが少し落着け、慌ててて怪我をするなということだろう。

平面的な地図を眺めていて、いつも気になるのは、A地点からB地点へ行く場合、一直線で最短距離を結んだ経路には、いったいどんな紆余曲折があるのだろうという興味である。

行き止まりや、少なくとも通行止めではない脇道や、未だ通ったことの無い道に出会うと、ついそちらの方へ行ってみたくなる。

で、急いでいる時も、そうでない時も目標に向かって一直線を選択することが多く、かなり高い確率で時間短縮には失敗する。

いや、それどころか、近くて早い本道を逸れて、遠くて険しい脇道を選択することも少なくないのだ。

まあ、それでも面白くないことが分かり切っている道を選ぶことの苦痛に比べれば、なんぼかマシだろうと考えている。

用瀬から、西へ向かう国道482号線で倉吉方面へ出るには、多少の紆余曲折もある。蒜山高原、津黒高原と並んで、鳥取県側へ食い込んでいる恩原高原を通るこのルートは、地図上の平面では最短ルートには見える。

だが、このあたりの県境というのは、たいてい峠と相場は決まっており、山越えという上下の移動量と曲がりくねった道程を考えると、必ずしも近いわけではないし、ましてや決して早いわけでもない。

国道482号線で辰巳峠を越えて、一度岡山県に戻って恩原高原を抜け、国道179号線に入って人形峠を越え、再度鳥取県というややこしいルートでもある。

ま、それは望むところであるが、国道482号線は、津山方面から上がってくる国道179号線に一度呑み込まれて、三朝町に入って穴鴨あたりで再び顔を出すので、実際は国道482号線を道なりに辿っているに過ぎない。

好天に恵まれたこの日、最も快適だったのは辰巳峠に至る国道482号線である。また、峠を越えて恩原湖周辺の景色を眺めながら走るのは、単車であったなら、もっと気持ちよかろうと思う。

国道179号線になってからの県境は、人形トンネルを通る新しい直線道路となっている。が、そんな道を走っても面白くはないので、当然旧道を選択したのは言うまでもない。

こちらは、路面状況こそ少々荒れているが、適度にきついコーナーも豊富で、ミニで走る分には飽きることがない。途中には多くのヘアピンカーブもあり、典型的な山岳路といった趣がある。


三朝町に入って暫く行くと、結局新しい国道179号線と合流してしまうのだが、御用とお急ぎでない方には、ぜひ旧道を通ることをお勧めしたい。

穴鴨から、北へ向かう国道179号線と別れ、再び482号線に戻る。2km 程走ると、福山という地名の看板が見えた所で、唐突に分岐する県道38号線が現われる。

そのまま国道を辿ると、津黒高原方面へ南下して倉吉からは離れてしまうので、右方向へ登って行く県道38号線へ入る。分岐した県道も同じく2km 程行った先で、県道305号線に変わる。

要するに、左方向へ道なりに行けば、県道38号ではなく県道305号線経由で倉吉方面への進路となるのだが、なぜか看板には県道38号線の表記しかない。県道番号に拘っているとその先は行き止まりになっているようで、どこにも通じていない袋小路である。

現時点では、グーグルカーでさえ途中で引返している、県道305号線を下っていく。やがて集落が見え始め県道115号線を経由して、美作街道(国道313号線)へ出ると、そこが関金町である。

前回は、関金町から県道45号線を西に向かって、一気に倉吉線のかつての終着駅である山守駅跡(跡形もなかったが)を目指した。だが、昔の面影を残しているのは、そのひとつ前の駅、泰久寺あたりであることを地元の方々からも聞いた。

だいたいロクに調べもせずに出掛けるから、こういうことになるのだが、耳年増になってから観光するのはどうも性に合わない。

その昔、2001年宇宙の旅という映画を見て、特に後半の内容は初見では全く理解できなかった。だが、その後小説版を読んだ時に、その映像が挿し絵のごとく脳裏に浮かんできたのを今でも鮮明に覚えている。

かといって、内容がより深く理解できたわけでもなく、より混迷を深めただけに終ったのだが、作者のクラークも映画については、そんな見方をして欲しい、というようなことをいっていたような気もする。

ま、それに似たようななパターンで、だいたい初めての土地を訪れることが多い。とりたてて予備知識もなく、なんとなく眺めていた景色を写真にとっておき、現像する段階でネットで詳細を調べるのが、ひとつの楽しみにもなっているのだ。

既に廃線になって久しい倉吉線について、あまり脱線しても復旧できなくなるので、本題に戻ろう。

倉吉線自体は、現在の県道45号線より少し北にある、旧道なのか新道なのかは不明だが、そちらに沿った経路を通っていたようで、ただ漫然と県道を流していたのでは目につかない。

農道のように見える、田圃の中の直線道路を走っていると、唐突にその道がT字路で終わってしまう。が、その先には微かに線路らしきものが見えて初めて、今まで走っていたのが倉吉線の経路だったことに気づく。

確かに敷設された線路は残されているが、草に覆われて数十メートル先は舗装路に変わっており、僅かに土手盛りの面影を残しているにすぎない。

神田神社あたりまで、その道を辿れば未だ地中に埋もれた状態の線路も残っている。現在は裏道のようになっているが、民家の隙間を縫うように走っていた、かつての倉吉線の情景が思い浮かぶ。

また、神社から先の裏道には、かなり長い距離に渡って線路も残っている。橋梁が撤去されているので線路は一度分断されているが、泰久寺駅の直前まで続いている。

その切れた線路の先、以前は線路を潜って通っていたであろう道を挟んで、泰久寺駅があった。ホームや駅名標も辛うじて残されており、雑草に埋もれてはいるものの、その先の林の中へも線路は続いているようだ。

…と、ヤギが2頭!!突然の訪問者に驚いた様子で、こちらを窺っている。こっちだっていきなりの対面にビックリしたのは同様で、その動揺振りもお互い様である。

あたりを眺めながら、写真を撮っていたのだが、気がつけば時刻はもう午後三時を回っている。いくら急いでないといっても、帰りの行程を考えればそろそろ移動しなければならない。ヤギ達に別れを告げ、泰久寺駅を後にした頃には少し雲も拡がって、いやが上にも日暮れを連想させる。

このまま、国道313号線を戻れば、犬狭峠を越えて前回の逆を辿って帰ることも出来る。が、それではあまりにも面白くないし、目の前には大山が手招きをしているようにも見える。

だいたい、ここまで来たら、大山を無視するわけにもいくまい。てなわけで、またもや大山方面を目指して西へと進んでいったのである。

既に DPM のバッテリも大半を使い果たし、我が身の燃料もそう多くは残っていないが、ミニのガソリンだけはまだ余裕があるようだ。

まあ、イザとなったら断腸の思いで高速を通る、という手もないわけではないから、行けるところまで逝ってしまえ、である。

前回の経験から、溝口インター付近では近過ぎることも分かっていたので、一気に日野川あたりまで飛ばした。DP3M では未だ少し近いようで、DP2M でぎりぎりだが面白くない。かといって、DP1M だと余計なモノが写り過ぎる、というジレンマである。

しかし、時刻は午後4時をとうに回って、f5.6 だと 1/500秒が苦しくなっているので、あまり贅沢も言っている余裕はない。山頂に雲はかかっていないものの、若干空は靄っている。

バッテリが残っていれば、いっそ夕日に期待するのも一興だが、西の空は曇っているのでそんな賭けにはリスクが大きい。撮りあえず、DP3M のパノラマでお茶を濁してその場を離れたのだが、結果的には、あまり満足な絵にはならなかった。

帰りの道中も、そのまま素直に高速に乗ればいいものを、江尾から米子道に並走する国道482号線を蒜山インター近くまで走るという、往生際の悪さである。

挙句の果てには、一見快適そうに見えた県道58号線へ入ってしまい、途中何度か県道から林道へ、そして険道へと変貌する過酷な区間もあったのも事実である。

だがこの手の道、時間的な余裕があって日中ノンビリ走れるなら、結構快適ではなかろうかという印象もある。ミニだからこそ、四輪車でもなんとかなっているが、オフロードバイクなら俄然面白みも増すに違いない。

てなことを、妄想しながらなんとか北房インター近くまで辿り着いた時には、辺りは既に真っ暗である。さすがに、深夜の帰宅は避けたかったので、観念して岡山自動車道を通ることにした。

日が暮れて走る高速道路ほど、面白くないものはない。睡魔との戦い以外にすることもないので、ミニの騒音には感謝したいぐらいである。

そんなわけで、大山のリベンジは成らなかったが、倉吉線の方はまあこんなもんかなあ、という程度には堪能できたような気がしている。

ただ、季節も良くなってきたことで、還暦を目前にしてあらぬ方向へと興味が湧いてきたことに、一抹の不安も禁じ得ない今日この頃である。



…ということで、ヒトツよろしく。
2015年05月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2015.05.19] 倉吉線リベンジ:後編 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

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