2015年5月9日土曜日

我慢の限界までもう少し

皐月、五月である。

五月の別名、皐月(さつき)は、田植えをする月の早苗月(さなへつき)が由来となっており、新暦では6〜7月頃にあたるらしい。

ということは、今週あたりはまだ卯月(うづき)の続き、みたいなもんだろう。

負の連鎖の方も未だ健在であり、先日などはジムニー(JB32)のキーシリンダー不具合で始動不能になったと、家族からの支援要請もあった。

まあ、一家揃ってボロ車、もとい古い車ばかりに乗ってりゃ、そんなハプニングも珍しくないわけで、原因は主にすり減った上に相当歪んでいたマスターキーで、無理な力を加えたことによるものだ。

これなど、古いモノを大事に使う気構えさえあれば、もう少し先送りにできた問題のようにも思うのだが、あの連中にそれを望んでも仕方あるまい。

ただ、部品さえあればさほど深刻な故障でもないはずだが、こちらも既に生産終了からかなりの年数が経過しており、そう簡単ではないらしい。

当面、代替品が手に入るまでは予備キーを差しっ放しにして、すり減ったマスターキーはドアロックのみで使うよう指示したのだが、さてさてどうなることやら。

十年以上にも渡って、その存在さえも意識することなく使っている家電製品に比べて、自動車の耐久性というのは、その価格とは無関係に極めて弱いと思う。

弱けりゃ弱いで、対策部品なり補修部品が用意されていれば何とかなるだろうが、経費削減を口実に各メーカでも切り捨てられる筆頭部門となっている。

使用される環境の過酷さという点においては、平穏な台所に比べりゃ、それはもう大きな違いはある。しかし、その分価格も高い訳で、生産される数もぱないことで量産効果によるコストダウンは、数多ある工業製品の中でもかなり期待できるジャンルだろう。

だが、コストダウンのメリットが消費者側に向いている製品は、実はあまり多くないのが現状だろうし、そんな製品の典型であることもまた、最近の自動車業界の実情ではあるまいか。

それが、電装関連のトラブルに伴う再修理中、代車として借り受けた VW up! をしばらく日常の足として使用した印象である。

当然、車を趣味の対象として見ている者と、単なる実用品として捉えた場合では、多少異なる視点になるかもしれない。ディーラーで借りた当日、その場で受けた簡単なレクチャからも、相当な割切りが施された車であることは感じた。

それは今日、お勤め品の軽四輪車でさえ(たぶん)装備されている、電動可倒式ミラーもなく、リヤウィンドウは後端が僅かに開く、まるでライトバン的な仕様であることから始まる。

また、パワーウィンドウのスイッチが運転席側に集中されおらず、助手席側の操作は助手席のドアにしかないことや、ダッシュボードの異様なほど安っぽいテカり方からも窺える。

電装関係の配線やスイッチ類を減らすことで、いったいどの程度のコスト削減に繋がるのか知らないが、たぶんユーザの神経を逆撫でする効果の方が遙かに大きいように思う。

だいたい、各ドアにスイッチを設置するぐらいなら、センターコンソール辺りに集中して持ってくるだけで同様の効果は得られる。その上、さほど不便を強いられることもないだろうし、そんな例は過去にも多く存在していたはずである。

前車であるレンジローバーは、たしかそのような形式だったはずだが、あれも前モデル(クラシックレンジ)からは、大幅なコストダウンが行われていたと思う。

発進の準備は、普通のパターンとは大きく異なるシフトレバーを横にスライドさせることで行う。駐車時は、パーキングポジションが存在しないので、ニュートラルかバックに入れておくことが必修であり、この点も素性がマニュアル車であることを意識する必要がある。

エンジンスタート時は、ブレーキを踏んだ上でニュートラルに入っていないとセルは回らず、ギヤが入ったポジションでキーを捻っても何も起こらない。このルールをミスってしまうと一度キーをオフのポジションに戻さないと、全く受け付けてくれない頑固者である。

動力関係では、クラッチペダルこそないが、トルクコンバータを介在しない、基本的にはマニュアルミッションを自動変速に仕立てた構造で、このあたりはスマートやフィアットにも搭載された、最近ではわりと一般的な機構であるらしい。

一連の儀式を行った上で、発進までなんとか漕ぎ着け、走り出してからまず感じるのは、加速中にもかかわらずシフトアップの度に、前へつんのめるような違和感だ。

シフトアップで、クラッチを踏んでアクセルを戻している時、マニュアルミッションのミニでは当たり前に行っている動作も、運転者以外はこのように感じているのかもしれない。

だが、個人的な見解では、ショーファードリブンな車格とも思えない車で、その機構の都合によるツケを全て運転者に押付けるのは如何なものかという気もする。

普段、車の運転ではポロだけでなく、ミニという極端に異なる車種を併用している者から見ても、それをただの慣れに過ぎないというには、あまりにも大きな違和感だろう、と思う。

したがって、その違和感をはじめ全ての比較対象は、あくまでも普通のトルコンオートマのポロプラス(6NAHW:2001)であることを断っておく。

タイヤはボディ四隅に追いやられ、ボディサイズは、全長(3,545mm/3,750mm)がポロよりも 20cm 以上も短いが、ホイルベース(2,420mm/ 2,410mm)は逆に 1cm ほど長いので、普通に走っている分にはさほど小さい車に乗っている感覚はない。 

エンジンは、直列3気筒DOHC(4バルブ)999cc 75PS/6,200rpm(9.7kgm/3,000) と排気量は小さいが、直列4気筒DOHC(4バルブ)1389cc、75PS/5000rpm(12.8kgm/3800rpm)のポロと比べても、さほど遜色の無いパワーがある。また、5速トランスミッションも直結段のないオーバードライブで構成されており、4段目でさえ 0.959、トップである5段目は 0.796、最終減速比は 4.166 となっている。

ちなみに、比較対象であるポロは、3速直結、4速(0.726)ファイナル(4.38)であり、それと比較すれば若干ローギアードな感じか。

多くの軽四輪車にも搭載されている3気筒というのは、何となくボソボソとしたそのサウンドからも、あまり回して面白いというエンジンではない。仮に、思いっきりアクセルを踏みつけても、ツインカムらしい快感は希薄である。早め早めにシフトアップされるトランスミッションと相まって、時速40km あたりではすでに5速に入っている。

それ以上に、アクセルに対する反応は鈍く、ワンテンポというより 1.5 テンポ以上待たされる感じで、急発進に至っては3テンポ遅いと言っても良いぐらいのタイムラグがある。このあたりも、基本コンセプトが所詮買物車の範疇でしかないのだろう。

ただ、高回転側に振られているようにも見えるそのスペックとは裏腹に、低域でトルク不足を感じる事も少ないのは不思議で、気筒辺りのボアが大きいことによるメリットなのかもしれない。エンジン特性もよっぽど上手く躾けられていると見えて、シフト時の違和感を除けば、必要にして充分な力もあるから、これはこれでアリなんだろうと思う。

お楽しみは、似非マニュアルであるものの任意のギアが選択できるというオマケの部分であり、個人的な興味ももちろんそんなところに集中する。

Dレンジに入れても、前後に操作することでシフトアップダウンを行えるのが、最近のオートマ車には多い。今回も仕事の序でとはいえ、久米南あたりの山坂道で遊ぶ機会があったので、その機構とやらを試してみた。

一般的なトルコン車の場合、加速に関するシフトは殆どアクセルワークだけで行われ、減速に関してはセレクタで積極的に落とさない限り、所謂エンジンブレーキなどは期待できない。

だが、オートマのセレクタに関しては、ポジションごとにロック解除しないと移行できない安全対策みたいなものが邪魔をして、あまりスムーズな操作にはなり得ないデメリットを持たされている。

その点、いつでもフリーな状態でギアが選択できるのがこの機構の最大のメリットであり、シフトレバーを前後に操作しながら山中の田舎道を走るのは、たとえそれが買物車であったとしても、思わずニヤついてしまうのが悲しい性である。

ただ、それも長くは続かず、マニュアルモードへ移行したつもりでも、何時の間にかオートモードに戻されていることに気がついた頃から、遊び心も萎え気味である。

実際にもオートモードままで、下り坂に差しかかってアクセルから足を離していたらエンジンブレーキもかかるようである。アクセルワークによる意識的なシフトアップは行われないかわりに、状況によっては必要なシフトダウンも自動で行われる。

また、坂道発進においては、絶えずトルクが伝達されているトルコンと違ってクリープ現象もないから、ブレーキから足を離してもすぐに解除されず2〜3秒は停止状態を保っている。

要するに、全てに於いて所詮あんたらが手動でやるよりも、全てお任せ頂いた方がマシですよ〜、と言わんばかりのたいへんムカツク仕様なんである。

ま、この車の想定ユーザを考えれば、不用意にマニュアルモードに移行しても、自動的にオートモードに復帰すること自体、親心のような安全対策の一環と考えられないこともない。まるで、はしゃぎ回る子供に、はいはいお遊びはお終いよ、と諌める母親みたいなものだ。

ただ、その機構も状況によっては上手く働かないこともあるようで、2〜3速への変速が行われず、マニュアルでシフトアップしてやらなければならない事態も何度かあった。未だ全て自動にお任せするには、不安材料も皆無ではないようだ。

6N後期のポロで、最も腹立たしいのは7秒固定の間欠ワイパーだが、さすがにその点は対策はなされており、単純に設定用のスイッチを復活させるのではなく、車速によって可変となるような仕掛けが施されている。たかが電子部品、いくら凝ったところでさほどコストには影響しない、というのが採用の理由に違いない。

だが、其処彼処に見受けられる思い切った割切りも、それほど安くもない車両価格を考えれば、単なるパフォーマンスにしか見えないのである。変な所に凝って、肝心な所に手抜きが目立つおかしな車、というのがトータルでの印象だ。

Lupo から L と O を取除いた up! という、ダジャレのようなネーミング通り、失われた魅力も!(ビックリ)するほどあるような気がしている。

そして、その印象は数日後に返却するまで大きく変わらず、エアコンも効かない少々くたびれたポロに乗り換えた時、何かホッとする安心感があったのも事実である。

ポロのエアコンに関しては、セカンドオピニオンでも結果的には引導を渡されたようなものであり、難行苦行の夏をやり過ごさねばならぬ事態となった。

どうせ、ミニではあっても使っていないし、天気がよけりゃ原付で凌げばなんとかなるだろう。まだまだ過ごしやすい季節なんで、あまり深刻には考えていないが、とりあえず次回車検の切れるまでは、来賓にとっては過酷な2シーズンになるに違いない。

消費者側の経費削減は、主に我慢で成り立っている。そして、それは限界まで続く聖戦なんである。



…ということで、今月もヒトツよろしく。
2015年05月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2015.05.09] 我慢の限界まで 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

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