2014年6月30日月曜日

姫新線:新見方面(後編)

やっと辿り着いた、姫新線:新見方面の後編である。

真庭から新見までの経路は、姫新線だけでなく、国道や県道も山間部の谷あいを縫うように走っており、およそ真直ぐなルートはない。

それだけに、岡山県内の山陽新幹線みたいなトンネルだらけの列車よりは、車窓からの景色も楽しめると思う。(たぶん)

ま、それが楽しいと思う人の数が少なくなっていることも事実で、かつては駅弁など食いながら、蒸気機関車の煙に咽せていた時代もあったが、その時はそれほど楽しいとも思わなかった。

当時は、それが当たり前だったからで、もうそんな体験を望んだところで実現するのは難しい。あくまでも想い出になって懐かしむ時だけ、楽しく感じるモノなんだろう。

これも年寄の特権だから目一杯楽しんでやろうと、出雲街道を走りながらそんなことを考える。

午後の部後半の経路は、以下の通り。

月田・富原・刑部・丹治部・岩山・(新見)

ここから先は、一日平均乗車人員もガクっと減って、いずれもここ数年は二桁台に割込んでいる。中には一桁の駅もあったりするが、被写体としての魅力度と相関関係はない。逆相関なら、あるかもしれないな。

国道181号線(出雲街道)は、中国勝山から旭川の支流、新庄川に沿って少し南へ下る。そのまま行くと、県道との分岐点辺りから米子方面に向かって再び北上するが、姫新線は国道と分かれて県道32号線と共にさらに南下する。

月田駅は、県道のすぐ側にあるので、その存在を知ってさえいれば自動車からも駅舎やホームは見える。しかし駅の入口は、少し東を通る旧道側からでないとアクセスできない。

旧道への入口はずいぶん手前にあり、駅の方向を示す看板を見逃すと、季節によっては、並木に隠れた駅舎にも気付かないかもしれない。

駅周辺は、旧道に沿って民家が密集しており、材木関係の会社が多いようだ。昭和初期の旧駅舎は既にないが、駅舎を見れば一目瞭然である。最近建てられた、ログハウスのような木造の立派な建物である。

付近には製材所などもあって、かつては存在した引き込み線からも、材木の輸送に姫新線が利用されていたらしい。駅舎の一部は、月田木材事業協同組合の事務所となっており、駅舎には駅名と並んで、つきの木センターというコミュニティ施設の看板も掲げられている。

美作追分以降、古見を除いて次の富原駅までは、真庭市の条例に基づく合築駅舎として、自治体がその建設や運営に関与しているようだ。道理で立派な駅舎が多いわけである。古見は駅舎自体がないのでしかたあるまいが、久世駅の現状はいったいどうなっているのだろう。

で、その月田駅であるが、駅の周りは並木通りのような景観で、大変良い雰囲気である。ただ、活気がないのが残念であり、上月駅のように道の駅も兼ねるような運営が行われたら、折角の施設ももう少し有効利用が出来そうな気がする。

県道からは、付近に目立つ店舗や看板もないことから、よほど注意していないと見過ごしてしまいそうになる立地条件である。すぐ近くで操業中の製材所も、現在では姫新線とは直接関わりもないようで、わりと広々とした駅周辺も閑散として物寂しい。

土曜日の午後でありながら、全く人影が見当たらないのは姫新線の各駅に共通したところで、それが兵庫県側との差になっているように見える。

駅舎内の手入れも、その他の駅以上に行き届いており、およそ一般的な駅らしくない清潔感もあって、利用者視点ではたいへん好感が持てるだけに、もったいないことである。

駅構造自体は、1面1線単式ホームであり、かつて存在したであろう引込線も、ホームの跡から認識できる程度で線路もすでにない。

月田駅で撮影している最中に、ついに雨が降りだしたが、それも長くは続かずじきに空も明るくなった。ここまで持ってくれたのがめっけものであり、この先はどうやら怪しい雲行きになりそうだ。

なんとか、明るさのあるうちに全ての駅を撮りたかったので、富原駅に向かって出発した。

美作落合から先の姫新線は、酔っ払いの足取りのように北へ南へと迷走している。月田川と県道32号線の双方に対して、姫新線は何度も交差を繰り返しながら、富原駅に向かう。

上り勾配が続いた先に、あまりにも唐突に富原駅が現われ、思わず通り過ぎてしまった。駅前広場もない駅である富原は、駅舎とホームの関係が段差になっており、駐車スペースは駅の両サイドに僅かながら存在する。

県道を挟んで、対面には民家が数件並んでいるが、いずれも何らかの商店であるところが、かろうじて駅前らしい。パナソニックの看板を掲げる電器店、ホルモンの看板も嬉しい食堂やタクシー会社に、田舎の山間部ではお約束の酒屋兼乾物屋など、駅前として鉄板の商店が一通り揃っている。

ただ、いくら交通量が少ないとはいえ、間に県道があってはあまり落ち着かない。一工夫すれば、道の駅的な展開も出来そうだが、如何せん駅前のスペースがなさ過ぎて、ちょっと無理がある。 鉄道が交通手段のメインであった頃なら、このような立地条件にも問題はなかったのだろうが、車社会との共存は地域の努力だけでは、なかなか難しい。

富原の駅舎も月田ほどではないが、木造でそれなりの雰囲気は保っており、駅自体の設備としては、わりと整っているように見える。ここも、前述の条例に基づく、合築駅舎のひとつである。

しかし、月田駅を見た後では、駅舎内部も安普請な感は否めない。内装のベニヤ合板は一部剥がれかけており、月田のような高級感はない。

改札から続く階段でホームへ上がってみると、それは1m以上高い位置にあるのだが、現在運行している列車には、あまりにも長い1面1線の単式ホームである。

待合所から、使われなくなって久しい対面側のホームを眺めると、そこはもう背後に迫る山の木々に、ほとんど飲み込まれている。その昔、駅名が書かれていたと思われる木製の駅名標が残っているが、すでに文字を読み取ることはできない。

まるで人類が滅亡した後の世界を見ているような気分になり、ほとんどSFの世界に入り込むことも可能だ。お暇であれば、姫新線に乗って富原まで来て、ホームの待合で「渚にて」あたりをじっくり読めば、気分も盛り上がるに違いない。(絶滅モノなら坪井駅もお勧めだ)

花壇というほどのものではないが、植え込みもあるし花も沢山咲いているので、天気が良ければ、静かな読書環境としての利用も検討の余地はある。ただ、姫新線の場合、その日のうちには帰れない可能性もあるので、事前の調査とそれなりの準備は必要だ。

そんな富原駅を後にして、次に向かったのは刑部駅(おさかべ)である。

ここから、真庭市を離れて新見市に入る。この地域の名前が駅名になっているのかと思いがちだが、町名は大佐小阪部で、発音が同じなのになぜか字が違うのである。

駅前の景観は、何となく芸備線の備中神代に似ている気がするが、刑部駅はすでに駅舎のない備中神代とは、比較にならないほど立派な駅舎である。中国勝山ほどではないが、戦国の出城といった程度の雰囲気はある。

駅の北側にある広場は、奇麗に整備されており、近所の親子連れが訪れていた。その駅舎も、一見すると甲冑や刀の類いが展示してあっても不思議はない作りだが、駅舎内には何もない。情報によると、物販店が同居しているらしいが、少なくともその日は営業はしていなかった。

ホームへ出てみると、2面2線の相対式ホームであるが、対面側の津山方面行きには待合所はあるものの、列車の停車位置以外は鬱蒼とした草木に囲まれている。線路内の雑草も比較的多い方で、津山方面に向かう線路は、ほとんど見えない状態になりつつある。

新見までの姫新線では、刑部駅が交換線設備のある最後の駅だ。しかし、現状のダイヤでは、交換線が必要になるパターンというのは、どの程度の頻度で発生するのだろうか。

津山線のように、1線スルー式になっていない駅ばかりで、乗客の利便性を考えれば、対面ホームへ行かなくても済む方法を取り入れるべきだと思うが、どうもそのへんの事情が良く分からん路線ではある。

だいたい、未だにキハ120 同士がすれ違う光景を目にしたことがないので、一度は見てみたいものだと思う。運良く写真でも撮れたら、たぶんそれは歴史的にも貴重な資料となることは、間違いないだろう。

何枚か撮っている内に、またもや雲行きが怪しくなり、小雨がぽつぽつ降り出したので、次の丹治部駅へ急いだ。

刑部からの県道は、比較的素直に新見方面に向かっており、4km ほど先にある田治部郵便局の前を左に入ると、丹治部駅が見える。ここも、地名は大佐田治部であるが、駅名は丹治部(たじべ)で、何かとややこしい。

公民館の分館も兼ねた駅舎の外観は、スキーロッジのようでもあり、看板を見なければ駅舎には見えない。だが、近くまで寄って見ると、やっと二桁台の平均乗車人員の駅では、そのやつれ方も一入であり、富原駅以上の廃れ具合である。

また、ホームと駅舎の位置関係も似ているが、丹治部駅の場合、駅舎の入口で階段を上る形になっており、改札とホームは同じ高さになっている。

ネットで確認できる、93年撮影の旧駅舎の写真を見る限りは、開業当時のいかにも昭和の香りがする、同時期のその他の駅と似たような外観である。 当然、改築自体は 90年代以降のはずだが、現在の建物からは、その廃れ方も含めて何となく恥多き 80年代っぽい雰囲気が感じられる。

駅舎内部も少し荒れており、クモの巣が張った吹き抜けの柱の隙間から、ステンドグラス風の採光部が見える。だが、そこからの光だけでは、富原以上に暗く、当然照明が点くはずの夜より昼間の方が不気味に見える。

1面1線の単式ホームを持つ丹治部駅は、ホームの奥行きが少し狭く対面の山も近いこともあって圧迫感があるが、一両編成の列車ならそれほど気にならないかもしれない。

かつて、近鉄奈良線では特急がクラクションを鳴らしながら、通過線もないホームをフルスピードで駆抜けて行く恐怖を味わったこともある。だが少なくともここでは、そんなシチュエーションにはお目にかかれない。そのあたりも特急など走っていない、姫新線ならではの特殊性だろう。

丹治部到着まで降っていた小雨も止んで、青空も覗く天気になってきたが、なにせ山間部の気紛れな空模様で、このまま晴れるとも思えない。

最後の目的地である、岩山駅に向かって出発する頃にはあたりが急に暗くなり、気紛れな一日を象徴するかのような、やっぱりなという土砂降りになったのである。

岩山駅に近づいた頃には雨の勢いは少し弱まったものの、すでに本降りの様相ですぐには止みそうもない。ま、最後だし適当に撮って帰るべえと、お気楽に考えていたのだが、駅に着くとそういうわけにもいかなくなったのである。

昭和初期に開業した岩山駅は、当初作備西線の駅として設置され、盲腸線と呼ばれる行き止まり路線の終着駅だったらしい。現在は、姫新線の中でも群を抜く乗車人員の少なさを誇っており(いや誇ってはいないか)、ここ数年は一桁台である。

今年1月更新のストリートビュー最新版も、グーグルスタッフの気紛れにより、岩山駅手前 500m で引返している。そして、なぜか駅を迂回する市町村道の方へ情報が偏っている。よほど、この駅の存在を広めたくないようだ。

時折強くなる雨の中、駅前広場に着いてぼんやりその駅舎を見ていると、なにやらムクムクと撮影意欲が湧いてくるのを感じたのだ。駅舎からも昭和の匂いがプンプン漂ってくるが、ほどなくそれは駅の横にある「便所」と表示された建物から来ていることに気がついた。

時刻はすでに16時を回っており、雨天と相まって光量は不足気味である。ミニの窓から正面には、無断駐車禁止(新見駅長)という看板も見えるが、咎める者も居なさそうなので、とりあえず後方にある自転車置き場の屋根の下に降りて撮ってみた。

ま、駐禁表示とのツーショットを公開するのも如何なものかと思い(するけど)何枚か撮って移動した。ところが、そのスペースを空けた途端に軽四がやって来て、その場所に止めて運転者はどこかへ行ってしまう。

結局、その車が写る角度からの写真は、撮れなくなってしまった。くそ~退けるんぢゃなかったと後悔しながらも、小雨になるのを待って、再び対面のホームから撮りはじめた。一応、合羽みたいなモノを着て外に出たが、カメラにも飛沫がかかるので、タオルをかけての撮影である。

こんな時は、防滴防塵の対応機種が羨ましくなるが、機種選択においてはこちらにも譲れない一線はあるので、致し方なしである。

多くの古い駅舎が、部分的にはアルミサッシやドアなどに交換され、それはそれで手をかけているので、実用面では必要なことなのだろうが、被写体としてはイマイチ感につながる。

その点、岩山駅の印象は、それまでの何れの駅とも少々異なる。自治体による積極的なテコ入れが行われているようにもないし、かといってあからさまなレトロをウリに観光地化した風にもない。ごく自然なその廃れ具合とか、あえて修復しようと試みた後もなさそうに見えるのが、個人的には気に入ったのである。

もちろん、一部の窓はアルミにはなっているが、他の駅のようにまんまアルミカラーの銀色ではなく、木造の外観に合わせた茶色の窓枠が使われており、極力目立たなくしてある。こうした、さりげない配慮が其処彼処にあるのだが、いかにもやってます的なところは見受けられない。

補修に使われている材料も、決して高価なものではなく、必要にして充分な分相応という割切りもあって、それがまた独特の趣にも貢献している。

惜しむらくは、この路線を走る列車の外見が鉄板むき出しで、あまりにも周りの景観と不釣り合いな、キハ120ばかりであることだ。

もちろん、今更な古い気動車や機関車を期待しているわけでもないが、せめて、駅舎のアルミサッシの色程度に配慮の感じられる、まともな塗装や風景にマッチするカラーというものがあるはずだ。(イタ電も困るが)

鉄オタからは、末期色(まっきいろ=真黄色)と揶揄される、クハ115系のカラーでさえ、今のキハ120 の外見よりは馴染むのではないかと思う。

そうこうする内に、都合よく新見発 16:52 の津山行(864D)がやって来くる時間が迫ったので、駅舎内に戻って待機した。塗装やデザインはさておき、この駅がただの廃虚などではなく、実用に供されている証には列車が必要だ。

途端に雨足も強くなり、彼方の山々には霧も出て絵的にはもってこいだ。思わず三脚に手が伸びたが、乗降客も皆無ではない可能性もあるので、ここはひとつ我慢である。幸い開放なら何とか 1/250秒 ぐらいはいけそうなので、手ブレには定評のある中望遠の DP3M ではあるが、息を止めてなんとか凌ぐことにした。

ま、結果は現場で予想したモノを大きく下回ることもなかったが、未だ多くの課題も残している。

DP1M/DP2M ともに、割り当てたバッテリもすでに使い果たし、残っているのはこの DP3M 本体内の一本だけである。撮影者の疲れもピークに達する時間では、とても万全の態勢とは言い難く、なかなか思い通りにはならない。

その上、天候や撮影者のモチベも関係するので、全てが文字通りお天気次第、気分次第なんである。

岡山方面へ向かっての帰り道、元気が余っていれば多少遠回りになっても、平均速度の稼げる広域農道などを選んで帰るところだが、この日は大人しく王道(国道180号線)を選んで、多少の渋滞は覚悟していた。

国道沿いには、伯備線や吉備線も近くを通っている。だが、こちとら本日は予定終了、振っても鼻血も出ないほどに、カメラも人間も電池切れである。後は、早く帰って風呂に入りたい気持ちで一杯だ。

そんな時に限って、トラブルという奴は起こるもので、吉備津から県道245号線に入ったあたりから、ミニの水温計がいつもより高目を示していることに気がついた。

以前、ヒータバルブを交換した時、冷却水が減り気味の傾向があるので、注意が必要である旨伝えられていた。だが、水温が上がってしまう前でないと、水量の点検もままならない仕様なので、つい失念していた。

無性に嫌な予感がしたので急遽、川入手前から倉敷方面へコース変更したのである。その先には、いつもミニの面倒を診て貰っている萬治屋がある。はたして、後100mという所まできて、ボンネットから水蒸気の湯気と思しき白煙が、…。

19年目となるヒータバイパスホースが、交換品の在庫を持って待ち構える萬治屋の目の前で、ついにその寿命を迎えたのである。修理代込みの 1.2 ×福沢諭吉は痛かったが、不幸中の幸い、ラッキー・ポンとはこのことであろう。

なにはともあれ、県北の山中でなくてよかったよかった、ちゃんちゃんである。

とまあ、そんなこんなで何とか締めることもできた、今回の姫新線:新見方面シリーズでした。

また、機会があれば、以前中途半端に終わった伯備線や芸備線なども企んでいるが、その時はカメラもミニも全天候性で、万全の態勢を以て臨みたいものだ。


…ということで、来月もヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.30] 姫新線:新見方面(後編) 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

2014年6月27日金曜日

姫新線:新見方面(中編)

というわけで、姫新線:新見方面の後編あらため中編である。

午後の部で訪れた経路は、以下の通り。

坪井・美作追分・美作落合・古見・久世・中国勝山・月田・富原・刑部・丹治部・岩山・(新見)

ただし、月田以降は次回にゆずり今回は中国勝山まで、である。

駅の数だけ見れば相当な過密スケジュールであるが、所詮県内のローカル線であり、営業距離も津山以西では高々70km 少々でしかない。

県北の長閑な風景の中、ノンビリとミニを走らせるのはそれだけで楽しくもあり、ましてやカメラを持って巡る行き当たりばったりの撮影行だ。

ドライブを楽しみ、撮影を楽しみ、そして帰宅後にはその日の収穫である写真を楽しめるのだから、一粒で三度美味しいなんとやら、である。(結果に愕然とするのは、帰ってからだし)

そういえばころっと忘れていたが、美作千代へ行く途中にはガンダムがあった。いろいろあるらしい、ガンダムの種類については疎いので詳細は割愛するが、とにかく目撃したことだけは記載しておこう。

美作千代から、国道181号線を久米川に沿って3km ほど西に行くと坪井駅がある。

開業は大正時代であるが、当時の駅舎は既になく相対式ホームにそれぞれ待合所があるのみだ。

駅入口に近い新見方面行きの待合所は、今まで見てきたいずれの駅よりも小さく狭く、庭に設置する物置程度でしかない。対面の津山方面行きのホームにあるものは、ほとんど屋根だけの吹曝しである。

行き違い可能な2線だけでなく、保線車両用の引き込み線まである駅としては、ずいぶんな扱いに見える。

相対式ホームが災いして、津山方面行きの列車を待つためには線路を渡って吹曝しの待合所で待たねばならない。そのホームも新見方面行きに比べるとかなり低い上に、待合所の背後は雑草が生え放題茂り放題で、今にも壁を越えて進入しそうな勢いである。

背後には、とても営業しているとも思えない廃虚のようなラブホも見え、いやが上にも不気味さを煽る。(2013年2月時点のストリートビューによれば、既に廃れて久しい廃虚そのものである。その名前から想像するに、開業は80年代ではないかと思われるが、…夜鳥?釈迦宅?)

これはあくまでも勝手な想像だが、夜8時以降の津山方面行きをこの待合所で待つ気にはなれないだろう。ましてや、雨や雪でも降ろうものなら、別の交通手段を探すに違いない。

端から見ている分には、呆れ返っていれば済むが、この駅を利用する(または、せざるを得ない)立場なら、客を舐めるなと文句のひとつも言いたくなる状況である。

ま、そのあたりの事情は、気紛れに立ち寄ってみただけの者がどうこう言えるもんでもないのだろうし、廃止にならないだけめっけものな可能性もあるので、ごく私的な感想に留めておこう。

坪井駅から、さらに西へ5kmほど行くと次は美作追分駅である。国道から、おいわけ茶屋という名の小さなドライブインとガソリンスタンドがセットになっている所を南に入った。だが、ここは道幅が狭く、本来ならもう少し先の県道411号線を高梁方面に左折するのが、一般的なルートだろう。

道の駅のような広場に、「キリタローの館」と名付けられた、何やら公民館のような建物が見えると、そこが美作追分駅だった。というか、駅自体はその隣の建物なんだが、ニコイチになっており、坪井駅とのあまりのギャップに駅の看板がなければ通り過ぎてしまうところだ。

駅舎内には、木の郷らしく中央に一本の大きな柱があって、待合室もやたらに広い。一日平均乗車人員では、坪井駅の2/3程度(23人/2011年)でしかない美作追分駅だが、落合町の町を上げての地域活性化の一環として改築されたらしく、ずいぶんと立派な駅である。

ちなみに、このキリタローは桐の木に関連するのかと思ったが、実は霧だそうで、岡山県北でも屈指の濃霧地帯であるこの地域の厄介者を逆手に取って、村おこしのマスコットキャラとしたそうだ。

ホームは、かつての交換線はすでに廃止撤廃されており、現在は1面1線の棒線駅でしかない。名目上、全ての快速列車が通過する駅、という不名誉な情報もあって、何かと地元の努力も空回りな感もある。

姫新線の津山〜新見間のダイヤによれば、日中5〜6本しかなく津山発の半数は中国勝山止まりである。これで利用せよというのがどだい無理な話だが、沿線自治体と民間企業であるJR西日本の双方にとって、さぞや頭の痛い問題であろう。

そんな美作追分駅を後にして、姫新線はそのまま県道411号線に沿った経路を辿る。このあたりは、国道、県道とも山あいを縫って通るので、新見方面には北の久世方面へ直接向かうか、南の落合へ迂回するルートしかない。

国道313号線との合流地点手前に、次の美作落合駅がある。姫新線では、中国勝山と並んで一日平均乗車人員も三桁を誇る駅であり、さすがに駅前広場、駅舎とも立派な佇まいである。

ただ、土曜日の白昼とは思えない閑散とした風景は、その他の姫新線各駅と共通で、駅舎近くの駐輪場に置かれた自転車や原付の数が、せめてもの救いである。

駅の構造は、相対式ホームで2面2線が跨線橋で結ばれる、この手の駅としては一般的なレイアウトである。

ここから姫新線は、大きく北に向かって、旭川沿いにヘアピンカーブのような曲がり方をする。新見までの道のりは、その距離以上に紆余曲折を経なければ到達できない。

このあたりは、県道国道も入り乱れておよそ真直ぐな道はない。姫新線も負けず劣らず南北へ迷走しており、未だ乗ったことはないのだが、よほど暇であればさぞや面白かろうと想像する。

落合から、県道329号線を旭川沿いに北上すると古見駅がある。田んぼの真ん中に1面1線の単式ホームで、駅舎はなく待合所のみが設置された棒線駅だ。

駅東側のあぜ道から撮ってみるが、残念ながら直線区間にあるので、西勝間田のような絵的な面白さはない。

三脚を立てようかとも考えたが、あぜ道とはいえ付近の生活道路になっているので、あまり腰を据えるわけにもいかない。

せめて列車でも写っていなけりゃ、いったい何を撮りたかったのかわからない絵になりそうだ。で、スカスカな時刻表を確認してみると、幸運にも 13:20 発(861D)が近いので、少し待ってみることにした。

他の駅では、閑散としたホームばかりを撮影しているように見えるかもしれないが、いや実際そうなんだが、この路線では各駅で列車の写った写真を撮ろうとすると、二泊三日ぐらいの長期戦を覚悟しないと難しい。

または、この気動車(861D)のように、津山から新見まで通しで走る列車に乗って往復しながら、停車の度に飛び降りては撮ってまた飛び乗るという、離れ業をやってみるかしかない。いずれにしても不毛であり、あまり楽しい撮影にはならない気がする。

個人的にはやってみようとは思わないが、普段の生活が如何に恵まれているかの再確認ぐらいにはなると思うし、そのために犠牲になっている何かが見つかれば、それが収穫だ。

県道329号をさらに川沿いに北上すると、国道181号線に出て少し賑やかになったところに久世駅がある。駅は、国道から一本北側の旧道に沿った所にある。

駅舎自体はそれほど古くもないが、周りの景観はいかにも昔の駅前といった雰囲気である。都市部の駅周辺では、あまり見かけなくなった個人商店も多く並ぶが閉まっている店舗が多く、とても景気がよさそうには見えない。

人の流れは表通りの大型店舗に集中しており、それは他の町と同じである。駅周辺に、新しい店舗ができれば相乗効果も期待できるのだろうが、なかなかそんな例は見かけない。

というより、駅を避ける形で展開している方が一般的で、何かと根深い問題がありそうだ。そのへんにツッコム気もないので、あくまでも表面的かつ無責任な感想でしかない。

久世駅の駅舎は、勝間田、林野駅あたりと似通った年代に見える、建物自体はそれほど目を惹くものではない。駅の構造は美作落合駅と同じく、交換線を持つ2面2線の相対式ホームを跨線橋で繋ぐ形式である。

落合町と同様に、現在は真庭市の一部である久世町だが、町自体が姫新線やその駅にかける期待や予算は、落合町に比べるとあまり大きくないようで、それは町の人口割合とも無関係に見える。

ほんの二駅しか離れていない両駅ではあるし、その反対側へ5km もない一駅で姫新線の津山新見間では、乗車率も最も高い中国勝山駅がある。せっかく線路があるんだから、せめてレールバスでも走らせりゃいいのに、と思うのはたぶん素人考えなんだろう。

その勝山に向かって、旭川沿いに国道181号線を西に向かう。地形的には、美作落合と非常に似通っている中国勝山であるが、駅舎も落合以上に立派な建物である。

あまりにも立派過ぎて、まず駅には見えない。天守閣がないのが不思議なぐらいで、さしずめお城のようなドライブインだな、これは。

駅名の看板も、およそ似つかわしくない細い明朝体だが、勘亭流あたりのフォントで、徹底的にコテコテ感を打ち出した方が、いっそ爽やかで潔い気もする。

付近の駅が美作を謳うのに反して、ここだけは頭に中国がつくところなども、唯我独尊なジャイアン的雰囲気を感じる。発音しにくいからというのがその理由らしいが、それはあくまでも表向きの話だろう。駅舎を見りゃ分かる、というものだ。

どうせ福井県にある(らしい)、えちぜん鉄道の勝山駅に対抗心を燃やしたに違いないのだ。あちらは、大正時代に建てられた駅を修復再現するという直球だし、上品過ぎる。

あまり事情も知らない者が、好き勝手言うのも憚られるので、このへんにしておこう。で、駅の構造だが、相対式ホーム2面2線を持ち跨線橋で繋がる、この規模の典型的な形態であり、別に面白くもないのである。

かつては、既に廃止になった国鉄倉吉線とつないで、山陰方面への路線となる予定だった南勝線も計画のみで消滅している。(まだ)廃止にならないだけマシな、姫新線の筆頭稼ぎ頭である中国勝山駅には、ぜひともこの調子で、これからもブイブイ言わせて欲しいものだ。

とまあ、撮影とはあまり関係ない話を書いていたら、いつのまにか無駄に長くなってしまった。

この後の、月田・富原・刑部・丹治部・岩山の各駅の方が、絵的には気に入っているという関係もあり、後編あらため中編ということで、もう少し引張ってみようと思う。

実際、現像を終えた時点では、午前中の撮影枚数に対してカルく倍以上あったのだ。

無理を承知で見切り発車したのは、行き当たりばったりにも程がある、あくまでもこちらの不徳の致すところだが、全く反省などはしていないことは言うまでもない。

で、今度こそ、次回姫新線:新見方面(後編)へつづく…、といいね。


…ということで、ヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.27] 姫新線:新見方面(中編) 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

2014年6月26日木曜日

SIGMA dp2 Quattro

SIGMA dp2 Quattro の販売開始が、いよいよ明日に迫った。

各方面で話題沸騰の新機種も、当面は横目で見るしかないが、なにせ DP2 Merrill の導入からまだ4ヶ月なんだから、それも致し方なしである。

正月やクリスマス、誕生日などが毎月あればとも思うが、たとえ口実があっても元手がなければどうにもならないのは、カメラに限ったことではない。

ま、元手さえあれば口実なんぞ必要ないかといえば、現実にはそれほど簡単な話でもない。現在のシステムに新しい機種が入り込むことでおこる混乱は、今のところ避けたい気持ちもある。

その調和を維持したいがために、あえて導入した DP2 Merrill だが、撮影枚数だけは順調に増えており、我ライブラリにバラエティに富んだ彩りを添えている。

現在のファイル番号から、各機種の撮影枚数は、最も導入が早かった DP3M が約8,200枚、1ヶ月少々遅れた DP1M が約4,300枚、11ヶ月遅れの DP2M が約1,900枚といったところである。

その DP2M も月平均の撮影枚数では、大半がオートブラケットの三連写で月間約550枚近いトップの DP3M に次ぐ、第2位(約480枚/月)を記録しており、ワンショットが多い DP1M の月間約300枚を大きく引き離している。

新機軸に対して興味がないわけではないが、DP Merrill でさえ未だ結果に満足できるものが少ないこともあり、標準画角に対する修業の身であるが故に、今暫くは静観したいというのが正直なところ。

かつては、カメラ本体そのものに興味があったこともあり、新しいハードウェアには比較的早く飛びつく傾向があったが、どうも最近は写真の方に比重が移ってきたことも影響しているように思う。

ぶっちゃけ、本当の dp2 Quattro を教えてやる、これでも喰らえとばかりに誰か…、いや止めておこう。

これを書いている真っ最中に、SIGMA Photo Pro 6.0 ダウンロード開始のご案内が来たりして、何かと慌ただしい日である。

当初、姫新線:新見方面続編の枕にしようかと書き始めたのだが、そちらはまた別の事情もあって、トタバタしている次第である。

また、以前の標題にしていた SIGMA Photo Pro 6.0 については、あまり短時間の使用でいい加減なことを書いてもまずかろうし、話が長くなりそうなので別ページに移動することにした。

この野郎、表へ出ろ! …みたいなもんである。(^^)


[2014.06.26] 追記:Update
いきなり、本日ダウンロード一時中止のお知らせが出たようだが、原因は Quattro がらみで起動時のエラーとは無関係らしい、ホンマかいな?


…ということで、ヒトツよろしく。

2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.26] SIGMA dp2 Quattro 〜より転載&加筆修正

2014年6月23日月曜日

姫新線:新見方面(前編)

鉄撮りの練習シリーズ、第十二弾である。

いや、前回のサンライズや DE10 も練習みたいなもんだし、それも入れたら十四弾ぐらいかもしれないが、いちいち数えるのもアホらしくなる。

よし、もう写真に関しては、一生練習が終わらないことにしよう。全て練習、生涯本番無し。(というと、なにか淋しい韻もあるが…)

したがって、ここは練習がデフォルトだから、たとえそれが見えないとしても 、全てのタイトルには末尾に(練習)が付いているのだ。

それなら、練習内容を表す標題も使えて、なにかと好都合でもある。

で、初回のサンライズエクスプレスの惨劇から、気晴らしを兼ねて回った姫新線の新見方面である。

当初、これといった目的も無く国道374号線を北上しているうちに、その場で思いついた姫新線の新見方面であり、相変わらずの行き当たりばったりな性癖は、この日も大いに発揮された。

当日、県南では曇り空から時折晴れ間が覗くこともあったが、県北の特に山間部においては、それも当てにならない。降りそうで降らない、たまに小雨がぱらついたかと思えば、一気に晴れてしまうという、終日にわたって不安定な空模様である。

ま、最後には土砂降りになってしまい、この日の締めとなった。結果的には、色々な空模様で写真が撮れたので、それも収穫のひとつだったろう。

前回、兵庫県側との違いを確認するために、林野から兵庫県寄りの姫新線を巡ったが、それは駅の数で言えば、たった4つに過ぎない。

だが、今回は林野の隣、勝間田から新見のひとつ手前の岩山まで、拠点の津山と新見を除いても何と17駅もある路線だ。

一日で回ろうとすれば、どうしても駆け足になってしまうが、その路線を文字通り一気に駆け抜けたのである。

いささか鮮度が落ちてしまった感は否めないが、DPM 3台の総計では728ショットにもなり、その後の現像作業を含めた整理にも相当な時間を要するので、致し方なしでもある。

当日の経路は以下の通り、まんま姫新線の路線図だ。

勝間田・西勝間田・美作大崎・東津山・(津山)・院庄・美作千代・坪井・美作追分・美作落合・古見・久世・中国勝山・月田・富原・刑部・丹治部・岩山・(新見)

今回、起点駅となる津山と新見は、時間的な問題もあってスルーした。

観光目的ならまだしも、さすがに絵的な興味を惹くようなモノは無さそうだったので、まいっかである。生真面目な鉄オタから見たら、およそ考えられない暴挙だったかもしれない。

それでも、全部を一気にというわけにもいかないので、とりあえず当日の午前の部と午後の部、みたいな分け方をしてみることにした。

未だに、坪井駅から先は全部現像も完了していない状態であり、できれば怪しい記憶が薄れてしまう前に作業は終わらせたいと思っているのだが、果たしてどうなることやら。

今回のスタートとなった、午前7時半頃の勝間田駅から始めて、午前中に回れたのは、勝間田・西勝間田・美作大崎・東津山・(津山)・院庄・美作千代である。

ま、当初よりどこまで行けるかなど考えていないのだから当たり前なんだが、イザとなれば津山から53号線を下って、津山線の続きという案もあったことが、一層そのお気楽さに寄与していたかもしれない。

午前の部で特に印象深かったのは、以前冒頭写真でもこれ見よがしに勿体ぶってみた、西勝間田駅である。勝間田駅がどうだったか、忘れてしまうほどにその印象は強いが、それには個人的な裏事情もある。

ここ数年の一日平均乗車人員の推移でも、西勝間田駅は軽く20人を切っており、午後の部で今回のトリを飾った、姫新線の中でもダントツの岩山駅(5人?)を除けば、丹治部と並んでやっと二ケタな駅である。

ちなみに、伯備・芸備線にはなるが、過去十年以上遡っても、一日平均乗車人員が一人以下(0.85人)の布原駅は流石に別格であり、その点においても秘境駅の風格十分である。

ただし、元々は布原信号場であり、国鉄時代からの正式な駅ではない。地方の管理局によって設けられた停車場の形態であったものが、民営化と同時に格上げされたので、駅としての歴史は浅い。

過去から現在まで、駅として賑わったこともなければ、廃れたわけでもないので、その他の駅と同列に比較することにあまり意味はない、と思う。

で、件の西勝間田駅、津山以東では唯一快速が通過する駅であり、その存在理由も含めて検証する目的もあったのだが、訪れてみた印象は中々良いものであった。

曲線区間の途中に位置する、駅というより停車場的な趣なのだが、その景観は単なるレトロ趣味な駅と違って、まことにチャーミング(という表現が相応しいかどうか分からないが)なレイアウトの駅である。

付近にある、跨線橋の端から降りて行く場所に位置するそのホームは、一般的な奥行きよりずいぶんと狭い。途中には、木造の立派な駐輪場があって、屋根こそありふれた波板になっているが、高取駐輪場という大きな木の看板が付けられている。

当地は、勝田郡勝央町黒坂であり、その名称は近くに流れる高取川から来ているのかと思った。地名や駅名とも異なるし、いったい何が名前の由来になっているのか調べてみた。

どうやら、明治時代には高取村という地名だったようで、本来なら高取駅でも良かったのではないかと思う。駅南側には、植え込みを挟んで民家も何軒か存在するが、普段の生活の中で姫新線が占める割合は、そう多くないのだろう。

駅舎も、以前は知らないが、現在は最近の古い建物を壊して建てられたと思しき、如何にもおざなりなブロックとスレートに波板の屋根という典型的な構成だ。

ただ、駅そのものは昭和38年頃に新設されたので、それほど歴史があるわけでもない。その駅名からして、あくまでも勝間田のオマケ、美作大崎との間に作られた臨時の停車場的な意味合いが強い。

だが、西勝間田駅をひと目見て脳裏に浮かんだのは、かつて親父鉄道のジオラマに存在した規格外れの小さな駅だ。様々な事情により、曲線区間の途中にあったりするところなど共通点は多く、初めて訪れたにもかかわらず、懐かしささえ覚えたぐらいである。

駅が設置された時期も、親父鉄道の作成過程とも重なる時代である。今となっては、それも確認する手立ては無いが、ひょっとすると親父もここを訪れたことがあるのかもしれない。

そんな思いから、つい長居をしてしまった西勝間田駅を後にしたのは 9時半を回っており、一駅に1時間以上もかけていては日が暮れてしまう。

だが、午前中三脚まで使ってじっくり撮れたのはここだけであり、不本意ながらその後は、あまり落ち着かない撮影となってしまった。その後、美作大崎でも何枚か撮っているが、さほど印象には残っていない。

また、その先の東津山は因美線の終着駅であるなど、交通の面ではそれなりに重要度は高い。しかし、絵的な面においては、個人的な趣味の範囲からは大きく外れてしまうこともあって、iPhone による一応訪れました的な扱いでお茶を濁した。

津山線では、津山駅の隣になる津山口手前から、姫新線は西へ向かって離れて行く。姫新線の次の駅は院庄であるが、東津山と同様に市街地近くに位置する駅なので、あまり食指は動かない。

ただ、院庄ヘ向かうために津山市内を抜けていく過程で、学生時代に同級生が住んでいた、また当時下宿先を探してウロついたことがある、中之町あたりを通ったのである。

まるで小京都のようなその景観は、オサレなカフェなども点在し、昔より遙かに観光地化されていた。土曜日ともあって、通りには若い女の子達が団体で群れている。なにか、とんでもない場違いな場所に迷い込んでしまったような気になり、這う這うの体でその場を離れた。

津山の中心部では、住んでいた頃は存在しなかった道路が縦横に旧道を分断しており、いったい何処が何処やら迷ってしまうほどで、当時の印象は極端に薄れている。

ところが、たまたま見覚えのある通りから少し奥まった所に、なんと40年以上も前に住んでいた建物を発見したのである。

それは、汽車通後に二回目の下宿先として間借りした西●荘であり、わずか一年少々の短い期間でしかないが、強く印象に残っている。

木造三階建てという、その頃でも一風変わった建物で、当時の自分の部屋は、その最上階である三階の西南の端っこに位置していた。

現在のワンルームに相当する、六畳一間で流しが付属、トイレは共同、風呂は歩いて三十秒の所に銭湯があるという、いったい便利なのか不便なのか良く分からん居住環境だ。

この周辺の環境変化が大きいだけに、そんな文化財でもない建築物が、現在でも存在し続けることができるということ自体に驚きを隠せない。

まるで、ここだけが時間が止まっているかのようでもあり、これはもう懐かしさなどという生易しくも牧歌的な感情ではなく、まるで幽霊を見たような途轍もない恐怖さえ覚える。

すぐ近くまで行って見ると、殆ど廃虚に近い景観だが、未だに人が住んでいる気配もあったので、iPhone による記念撮影に留めた。

この場所に決める前に、不動産屋の仲介で下見に訪れた物件は、前述の中之町付近にもあった。そこは寺の中にあって、広さは何と五十畳はあろうかという、台所もない襖で仕切られた和室一間だが、無駄な広さの割りには格安で、要するに寺そのものなんである。

家主は当然坊さんで、当時の自分とは(たぶん今でも)思想や考え方からして相反する点も多く、その後のトラブルに発展しそうな雰囲気だ。特に若い者には口煩そうで、何かにつけ説教をかまされるのが落ちである。

おまけに、下見のつもりで訪れたにもかかわらず、入居者心得みたいなものを延々聞かされりゃ逃げたくもなる。もちろん、出家する気も更々無いので丁重にご辞退申し上げたのだが、今から考えてもおちゃめな物件を多く抱えた、風変わりな不動産屋である。

ま、結局その後間借りを決めた例の下宿先でも、家主の鬼ババアとはしょっちゅう揉めたので、トラブルの種は主にこちら側にあったのは明白なんだが、…余談である。

津山市の中心部を抜けて国道179号線と合流すると、姫新線の線路も国道と並走するようになる。その周辺は、最近できたスーパーや飲食店も多く、民家より店舗や会社の建物方が目立つ商業地域である。

古い町並みが残る市の東側とは打って変わって、新興の市街地であることも影響しているのだろう。 国道から、一本南側を通る旧道沿いにある院庄駅周辺は、いわゆる駅前という雰囲気は皆無で、あたかも国道からは駅の存在自体が隠されているようにも見える。

そんな院庄駅の印象は、あまり好ましいものではない。ちなみに、駅名は「いんのしょう」であり、印象にひっかけたダジャレではない。

開放された改札裏では、携帯ゲームに興ずる中坊が屯する、およそ観光にも適さない環境である。駅舎も設置された大正年代のものではなく、昭和の中期頃の安気な建売のような待合のみが残された、まことに絵になりにくい景観だ。

よって、ここでも全て iPhone に任せることにして、DP Merrill がカメラバッグから取出されることはなかった。

院庄駅から出雲街道を西ヘ向かうと、国道も179号線から181号線へ変わり、吉井川を渡ってから次第に民家も疎らになってくる。久米川を挟んで、それなりに密集した住宅地の中に、美作千代(みまさかせんだい)駅がある。

というより、駅に寄り添うように民家が建っている昔ながらの景観であり、駅周辺の家々は何れも年代物が多い。駅の開業は院庄と同時だが、こちらは駅舎も古い建物が残っている。

駅前の郵便ポストも、意図的に円筒状のモノに戻すなどそれなりの配慮はされている。駅舎内には古い石炭ストーブ(?)があったり、ホーム側の窓ガラスには昔の写真も貼られており、出来る限りの演出はされている。それをあざといと見るか、景観保護と見るかは人それぞれだろう。

撮る方としても、見捨てられて朽ち果てた廃虚や、廃屋を期待しているわけではない。古ければ古いなりに、手をかけて維持しているモノの方が好感は持てる。だが、それはあくまでも見る者の視点であり、利用する者の視点と一致するとは限らない。

やたらに白く輝くアルミサッシとのミスマッチや、如何にも70〜80年代に設置されたようなデザインのベンチが醸し出すアンバランスは、景観保護とその費用的な面の限界という、現実的な問題を表している。

見方によっては、あらゆる年代が混在するタイムカプセルのようで面白くもある。だが、絵的にどうかといえば、よほど明確な主題でも持って写真にしない限り様にはならないだろう。まず、自分のレベルでは到底無理な重いテーマにも思えるので、あまり深入りはしないことにしている。

美作千代駅を見たあとに院庄駅を思い出してみると、お隣同士の駅でも大きく異なる点から、周辺人口の数だけでなく住民の意識も影響しているように思う。

人口が増えれば意思の統一は困難になり、逆にどんどん希薄になっていく。これでいいやで済ませれば、駅の機能としてはとりたてて不足があるわけでもない。

だが、こう在りたいと思えばそれなりの努力も必要になり、それを望む人の数的なものよりも、意思の強さみたいなものが無ければ実現できない。言い換えれば、それが政治力ということになるのだろう。

ちなみに、1999年から2011年までの乗車人員は、院庄駅の846人に対して美作千代駅は1069人である。航空写真などの資料によって想像できる人口密度から考えても、これは意外な数字である。

この内何人が、地元の生活路線としての利用者なのかは不明であるが、地域が異なれば、居住環境による生活形態もさまざまに変化する。

少なくとも、この十三年間を通して院庄駅の利用者数が、美作千代駅の利用者数を上回ったことはないが、いずれの駅も年々利用者が減っていることだけは確かだ。

その昔には、鉄道がある町とない町では、考えられないほどの格差があったのだが、現在ではそれ自体が大きなメリットには感じられないだろう。それはおそらく、無くなってみないと分からない程度、でしかない。

ところで、事前に仕入れた情報と異なり、津山以西の路線もキハ120が運行されており、キハ40・47は一度も見かけなかった。

この点は、撮る側の視点からすると少し残念であり、なにか津山線や吉備線が県内では最後の砦になっているようにも見える。岡山で見かけることができるキハ40・47は、もうそれほど長くはないのかもしれない。

そんなことを考えながら、美作千代駅の裏手でコンビニ弁当による昼食を済ませた。が、あまりノンビリと寛いでいる時間もないので、取り急ぎ午後からは坪井駅へ回ったのである。

以下、次回姫新線:新見方面(後編☞中編)へつづく…、かな?


…ということで、ヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.23] 姫新線:新見方面(前編) 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

2014年6月19日木曜日

iMac (Mid 2014)


Apple News Release: Intel Core i5/1.4GHz プロセッサを採用した低価格な iMac (Mid 2014) を発表

廉価版とはいえ、CPU はなんと歴代 iMac インテルモデルでは最低の 1.4GHz Core i5、GPUはプロセッサ内蔵の Intel HD Graphics 5000 と1年前のノートに逆戻り、内蔵メモリは 8GB オンボードで増設などは一切不可と潔い、てか開き直りだ。

拡張性は全くないが、価格は ¥108,800(税別)よりの、なによりも低価格がウリのそれなりなスペック。また、従来モデルも一部値下げされた模様。

だが、よ〜く目を凝らして見ないと気付かないほどで、ほとんど誤差の範囲である。税別で ¥2,000〜¥3,000 では、昨年の製品発表時の価格に比べてもまだ高い。

ま、あくまでも個人的な感想だが、今頃になってこの程度の価格改定をするより、4月に実施して税率改定後もお値段据置で頑張ります、ぐらいの方が喜ばれただろうにと思う。

iMac (Mid 2014)

iMac 21.5インチモデル:¥117,504(税込)

[MF883J/A] iMac 21.5-inch/Intel Core i5 1.4GHz(Turbo Boost Max 2.7GHz)

MM 8GB 1,600MHz DDR3 SDRAM onboard/HDD 500GB SATA/Intel HD Graphics 5000

以上、業務連絡でした。

…ということで、ヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan


2014年6月15日日曜日

サンライズエクスプレス

日の出の時刻というものは、季節と共に変化する。

岡山地方の日の出は、今週あたりが午前4時51分と年間を通して最も早くなるらしい。それならば、とばかりに恒例の熊山〜和気間の線路脇へ出掛けたのだ。

もう何度目のリベンジだったかも忘れてしまうほど、撮ってきたような気もする。何事も、場数をこなさなけりゃ上達はしないのはお約束だが、場数さえこなせば上達するわけでもないことも、歴然とした事実である。

また、力の入れ具合とその結果が、必ずしも比例するとは限らないのは現実には良くあることで、実はそれほど珍しくもない。

昨年の9月以来、何度となくリベンジを繰返してきた、サンライズエクスプレスである。アレをきっかけに、風景撮影の一環として鉄道写真を撮ることが多くなった。

というか、ここ最近は定点観測以外では、それしか撮っていないようにも思う。

見様見真似で始めた鉄撮りであるが、未だ練習の域を脱したとは言えず、同じような誤ちを繰返している。

それでも、幾度か感触を掴んだ気になっては、今度こそ本番というつもりで臨むのだが、結果的には以前より悪化していたり、新たな問題に気付かされたりで、なかなかイマイチシリーズから脱却が出来ない。

今回も、そんなご多分に漏れずな結果でしかないが、それも厳しい現実として受入れねばなるまい。

一回目は、現地到着が遅れたための準備不足と、焦りが招いたミステイクで、撮影段階でもある程度は解っていた。そのまま帰って現像などする気分になれず、気晴らしも兼ねて別の路線の撮影に回った。(次回以降の姫新線:新見方面シリーズになる予定)

帰宅後も、後から撮った姫新線は翌日には現像作業を行ったが、それ以前の写真に関しては、暫く放置しておくしかなかったぐらいである。

ま、それでも全く無かったことには出来ないので、先日やっと現像に取りかかったのである。絵的には最もマシに見えるショットが、この回の憂鬱の原因であることははっきり分かっていた。

それは、バックアップショットの DP2M 版だ。

この日は、いつもの慣れた2台態勢ではなく、新規導入の三脚シルイ(T-2204X)上に DP2M をセットして、メインである DP3M はマンフロット上にシンプルな構成(DYH-66i & DT-02)で設定し、iPhone 5s を SLIK 500G-7 にという、相変わらず欲張りな布陣である。

この日は、ほぼ定刻通りの運行だったので、設置作業を終えたのは結果的に通過予定時刻のほんの10分ほど前だった。幸い曇天で朝日の直射はないので、光線も回って前面の影もきつくないだろう。予想より、少し暗いが背景の山々には霧がかかっており、絵的には期待できそうな気配である。

一応、DP2M は EV-07 程度のマイナス露出で少しシャッター速度を稼いでおくことにした。直前の 06:04 に通過する貨物列車(EF210-126)でのテストは上々であり、開放では 1/500秒程度が可能だ。

同時撮影の DP3M の方は、EV-2.0 という極端なマイナス補正を試しにやってみたら、1/1,000秒でさえいけるが、さすがに暗過ぎるのでこちらも本番は EV-1.0 の予定である。

桃太郎では、側面反射も思ったほどではなかったが、なにせクハネ285の側面はテカテカであるので、念のために追加の EV-0.3 である。飛んでなけりゃ、現像で何とかなるだろうという甘い考えだが、それに気付いたのはもっと後のことである。

ただ、撮影後にそのプレビューを背面液晶で確認した時、DP3M の構図に疑問を持った。

丁度中央右よりに、下47番の電柱が位置しており、たぶんベストなタイミングで捉えることが出来たら、先頭車両の頭に角のごとく生えてしまうことが危惧された。

もうあまり時間は無いはずだが、少し右にパンして中央左に変えてみたりしていたその時、06:09:30 を少し回った頃に先頭車両の前灯が見え、サンライズエクスプレスの14両編成が、山を背景に曲線区間を立ち上がってくる。

え〜いクソッ、とぼやきながらビューファインダを覗くが、アングルを変えたことでまだ DP3M 上では液晶画面に見えてこない。おい、このアングルでは最後尾が入らないんぢゃねえの、と今更ながらに気付く。

さらに、DP2M で遠景での一枚目撮ろうとした時、いつもの2台態勢より遠いことに気付いて慌ててしまう。そうか、今日は真横に立てたシルイの三脚に設置したんだった。

慣れないことをするとロクなことはない。そのシャッターボタンを手探りで探し当てた時、何かダイヤルに触れてしまった気がするが、そのまま一枚撮ってメインの DP3M に集中する。

マニュアルで、置きピンした下47番の電柱に差しかかるのを待って、バックアップと共に同時連写の予定である。が、DP2M の方は少し遅れた気がする。一枚目の書込みが終わっていれば、8枚目で瀬戸と出雲の連結部分も撮れたら嬉しいなという、何の根拠もない偶然に期待したタナボタショットだ。

実際、そう上手くいくわけもなく、遅れたことにより8枚目では早過ぎ、運良く撮れた9枚目では遅過ぎるという、想定内の外し方であった。

それより、気になるのはメインの構図とバックアップの露出補正だ。シャッター周りのダイヤルは、デフォルトの絞りから露出補正に変更してある。案の定悪い方(明るい方)へシフトされており、被写体ブレも痛々しい 1/320秒(EV+0.3)だ。

絵的な構図とタイミングはバックアップがベストで、写真的な露出に関してはメインだが、タイミングはさておき構図がイマイチで、14両編成の意味は全くない失敗作であり、またもや二兎を追う者は一兎も得ずの典型である。(懲りないねえ)

ま、こうなったらティンカップのロイ・マカヴォイの最終ショットみたいな心境で、何が何でも欲張りなショットを完成させてやるぞ、という意地みたいなものさえ出てくる。したがって、より良い結果が出るまでは、相当な時間とよほどの幸運が必要になる。

その後の姫新線での経緯では、(結果は別として)わりと良い感触が得られたので、そんな惨劇も帰宅するまでは忘れることが出来た。

気を取り直して、現像前の撮って出し JPG による確認作業では、当日の反省点など検証しながらリベンジ計画を練ったのである。

で、翌週に再度チャレンジして、前回の反省点をひとつひとつ潰していくという、比較的堅実なアプローチを試みたのだが、撮影条件が異なれば必ずしも前回の解決策が、毎回通用するとは限らない。

どちらかといえば、その場のノリで対応した方が結果的に良いことも少なくない。そうは言っても、出来れば同じ過ちは繰返したくないので、多少なりとも学習機能の片鱗ぐらいは発揮しておかねばなるまいとは思う。

だが、最終的に現像してみた感想は、なんと昨年九月の最初の失敗作の方が、二回目のそれなりに撮れたつもりの写真より絵的には遙かにマシだったという、驚くべき結果に愕然とする笑うに笑えないものがある。

DP3M のファイル番号から類推して、およそ3,600枚にも及ぶこの九ヶ月間は、いったいなんだったのだろう、と思う。

前回の反省点の筆頭であった、シャッター速度低下による被写体ブレに関しては、一応対策はされていた。しかし、いくらシャッター速度を稼ぐためとはいえ、マイナス補正を掛け過ぎると、現像時に1段以上のプラスではノイズが増えてしまう。

この事実に気がついたのは、実は最近のことであり、今回の失敗を期に以前のサンライズエクスプレスの写真を再度検証するに至ってからという、まことに悠長な話ではあるのだ。

ノイズ低減と解像感のどちらを優先するかといえば、個人的には解像感を失うぐらいなら、多少のノイズには目を瞑る覚悟はある。だか、それはあくまでも二者択一を余儀なくされた場合であり、フツーは両方取るに決まっている。

いっそ、今回は無かったことにして公開は見送り、三度目の正直でもう少しマシな絵が撮れてからとも考えた。

だが、あくまでも自分に対してであるが、今後に期待を持たせるべく最終的な結論めいたものを出すのは、もう少し後まで引張ってみることにした。

次回が、いつになるかは今のところ不明だが、必ずや元々のスタート地点である、ここ熊山〜和気間において納得のいく結果を出すことを心に誓い、決意も新たにしたのである。(うわ〜、だいぢょうぶか)


…ということで、ヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.15] サンライズエクスプレス 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

2014年6月12日木曜日

6月の定点観測

雨とともに、懸案の原付撮影行計画も流れっぱなしである。

梅雨入り宣言した途端に晴天が続く、というパターンも期待したのだが、気象庁もそう都合よく外してはくれない。

さすがに、合羽や防水ジャケットまでも写真機材と見なして、導入計画を立てるほどには気合いも入らない。

今暫くは従来通り、ついでのついでによる行き掛かり上の成り行き任せに頼ることにして、キリンビール6月号だ。

ところで、X-Day はどうやら 6月27日らしい。<dp2Q>

今月に入ってから、何度か訪れたビール工場だが、梅雨なら梅雨で6月らしく雨の風景も一興と考えて、あえて天気の悪そうな日を選んでみた。

初回は、出掛ける前はどんより曇っていたが、一仕事済ませて現地に向かう途中から泣き出したのである。長船方面より、備前大橋を渡った頃からは本降りになってきたので、シメシメこれならそれらしい絵になりそうだと、内心喜んでいた。

ところが、現地到着と同時にピタッと止んだかと思うと、東の空には一部青空も覗く始末であり、我ながら晴れ男ぶりにも困ったものである。

それでも、雲の動きは速いので暫く様子を見ることにした。程なく、小雨もぱらつきだしたが、この日は、端っから雨を想定して営業車で訪れたので、例によってテールゲート越しの撮影だ。

一応、機材チェックも兼ねてフルセットを持込んだのだが、狭い車内で三脚2本を展開するのはひと苦労であり、なるべくいつものアングルに近づけようとはするが、なかなか思うようにはならない。

特に広角の DP1M では、その画角をカバーしようとすれば、どうしても車外にカメラを出さないことには、リヤゲートの開口部をフレームアウト出来ない。

しかたがないので、マンフロットのセンターポールを横に展開して極力外に出してみる。だが、シルイのように末端にフックも装備されていないので、カウンターウェイトを吊り下げることも出来ず、片手で押えたままのいささか無理な体勢である。

いつも通りの、2秒タイマーによるオートブラケットで撮ってみるのだが、どうしても押えている手の震えが伝わってしまう。これぢゃ三脚使っている意味ね〜、という状態になりがちな上に、斜め横からの液晶画面による確認では、細かいアングルや水平の調整もままならない。

終いには小雨が降りしきる中、車外へ出て悪戦苦闘を始めた。三脚の脚1本だけ外に設置し、カメラだけはテールゲート下に位置するような、折衷案で凌ごうという姑息な手段である。

DP2M/DP3M では何とかなるが、DP1M の画角では左右は確保できるが、今度は上下方向が厳しい。

そうこうしているうちに、俄に暗雲が立ちこめてあたりは一気に暗くなり、激しい土砂降りとなった。 f5.6 では、もう苦しい明るさになる。

慌てて、我が身もテールゲート下に潜り込もうとするが、風も出てきて横殴り状態になり、カメラにも猛烈な飛沫がかかってくる。

とりあえず、カメラにはタオルなど被せながら、いっそ、雨でも写りはしまいかと、プラス補正をかけてスローシャッターにしてみる。結果的には普通に撮った方がよかったりで、こと DP1M に関しては、余計なことを考えずお任せした方が、良さそうである。

何れにしても、画質は期待できそうにないことは、撮影時点でも予想していた。だが、結果はそれ以前のイマイチさで、テールゲートでケラレていることにも気付かなかったという、お粗末である。

最終的に、初日の DP1M によるマトモな絵になっているモノは皆無で、失敗写真の乱造に終始してしまった。

いくらなんでも、これで6月号で御座いはまずかろうと思い、後日リターンマッチに再度出向いた。

二回目となるこの日は、客先ヘ回る前の比較的早い時間に立ち寄ってみた。ご当地では、運良く田植えが始まっており、なんとか季節感のある絵が撮れそうな気がした。

工場前の田んぼにも、水が張られて水面にはキリンの赤い看板とタンクも映り込んでいる。コイツは、何とか絵にしたいものだと、いつも以上に粘ってみたが、なかなか風の止んだ瞬間を捉えるのは難しく、鏡のような反射にはなってくれない。

撮影前、頭の中に浮かんだ妄想イメージは、かつて見た(もちろん写真ね)東南アジアのどこかの、差詰めタイかベトナムあたりの農村の風景であり、葉笠(ノンラー?)を被った農民と牛の2ショットだ。

しかし、ここはメコン川ではなく、吉井川である。岡山の田んぼで、いったい何を期待しているのだろう。

近代農家のご多分に漏れず、機械化された田植機とトラクタが今や必修であり、そのおかげで国産米が食えるご時世である。

昨年の田植え以来、久々の出動に不調な機械もあったのだろう。あぜ道では、イセキの軽トラックも忙しそうに走り回っており、あちこちでメンテナンス作業と思しき光景も目にする。

この日だけで、DPM 3台合わせて、およそ 250 ショット近く撮影したのだが、残念ながら、妄想のような期待通りの絵にはならなかったのである。(あたりまえだ)

2時間以上粘ってみたが、気がつけば次の予定時刻もとうに過ぎており、後ろ髪を引かれる思いで現場を後にした。

実際には、その間の日にも訪れていたのだが、当日は曇天ながらも時折晴れ間も覗く半端な空模様に、あまりにも梅雨らしくない絵にしかならないと思って、あえて撮影はしなかった。

季節柄、日の出の時間も早くなり、そろそろサンライズエクスプレスのリベンジもやっておかねばなるまいと、その日は早朝より出張って、そのまま熊山〜和気間の線路脇に直行したのだが、…。

ま、そのへんの事情は次回以降、小出しにしながら、間を持たせようなどと考えているのだ。果たして、前回の冒頭写真の謎が明らかになるのか、乞うご期待である。


…ということで、ヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.12] 6月の定点観測 〜より転載&加筆修正

2014年6月8日日曜日

Manfrotto vs Gitzo ??

どうも最近、巡り合わせがよろしくない。

トラベラー三脚(SIRUI T-2204X)導入後、未だその効用を実地体験するに至っていないのだ。なんとか梅雨に入る前に検証しておきたかったのだが、なぜかタイミングを外してしまう。

ところで、前々回の機材紹介では導入前の期待も大きく、またそれに十分に応える機能/性能から、つい全部入りなどと書いてしまった。

ま、あながち間違いではないとは思っているのだが、ひとつふたつ欠けている機能もあった。そのひとつが、水準器である。

で、またもや機材ネタ、それもなんとジッツォ(GITZO)だ。

所詮、オマケの機能に過大な期待を抱いてもしかたがないのだが、特に水準器に関しては、過去何度もその精度のバラツキには閉口した経験がある。

そのせいか、水準器があろうがなかろうが、いつしか目にフィルタがかかるようになってしまったらしい。

出掛けるチャンスはないものの、室内(またはベランダ)のシミュレーションを行ってみた。

折角、独立したパンベースを持つ雲台も、三脚レベルの水平が出ていないと、十分に機能を発揮できない。しかし、自由雲台(Sunwayfoto FB-28i)だけが載ったシンプルなシステム故に、三脚本体に水準器が無いとなれば、水平出しには苦労する。

トッププレートはパンニングクランプ(Sunwayfoto DDH-02i)に交換してあるので、それに付属する円形水準器を数に入れるなら、全くないわけではない。だが、自由雲台のトッププレートとパンベースの関係は、文字通り自由奔放な設定が可能なので、水平基準となるべき指標とはならないのである。

レベリングベースがないと、こんなに不便だったのかという事実に、今更ながらに驚いている。

で、何とか三脚レベルで水平出しをすることを想定して、目安にでもなればと後付けの水準器を探してみた。気泡管水準器も、写真機材として探すと何かと高く付くので、当初はシンワの丸形水準器の小径版でもないかと、近場のホームセンターを回って見た。

T-2204X のネック部分には、僅かながら平らな部分があるのだが、そのスペースは淵の部分に段差もあって、奥行き 10mm ほどしかない。ここに、何とか円形水準器の小さいものを貼付ければ、邪魔にもならなくて良かろうと考えた。

しかし、田舎のホームセンターで見かける気泡管水準器は、小さいものでもせいぜい 16mm ぐらいまでしか無い。2〜3軒回ってみたが、ネットで見かけた 10mm の製品などは皆無である。

せめて、11mm ぐらいなら底面を少し削れば、段差による水平のズレには対応できそうに見えるが、さすがに 16mm となると出っ張りも大きくなる。どうせ、瞬間接着剤で貼付けてしまおうなどという安易な考えなので、使用中にポロッと外れてしまう可能性も高い。

元が安いモノなので送料まで負担して通販を利用する気にもなれない。勝負は税込 500円以内で決まると考えていたのだが、どうもそういうわけにもいかないようだ。

そんな事情から、再び写真機材から検索してみると、マンフロットから何種類か低価格で製品化されているようだ。

最初にこれはと思ったのが、マンフロットのオートポール水準器 (Manfrotto 032SPL Autopole Spirit Level)である。

アマゾンでも取扱いはあったが、納期が少々かかるのが残念だ。こんなモノは即決即断と相場は決まっているので、ヨドバシで探すとこちらは即納な上に、アマゾンよりも安く送料無料で税込千円以下(¥861)だ。

主にその価格に惹かれて、詳細の確認もそこそこに発注したのだが、実物を見てその大きさに驚いた。

ポールに抱きついた状態で精度を出すには、ある程度縦方向のサイズも必要になるのだろうが、写真から想像したよりも二回りほどデカイのだ。気泡管自体は、直径 11.8mm の円形水準器としてありふれたものだが、当初もっと小さな気泡管が付いているものとばかり考えていた。

ま、必要な時だけ取付ければそれほど邪魔になるものでもないし、実際に付けた状態でも収納は可能である。問題はセンターポールなどに固定する為のゴムバンド(としか言い様がないのだが)もあまりにも太く、本体は干渉しないがこのゴムバンドの方が当たるのである。

それ以上に、気泡管も完全に固定されているわけでなく、指で押えると取付部の中でカタカタ揺れ動く状態では、およそ水平基準にはなりそうにない。許容範囲に収まるよう調整した後に粘土で固定してみるなど、出来る限りのカスタマイズはしてみたのだが、イマイチ感は拭えない。

もう少しスマートな製品はないかと探してみると、ブランドはジッツオだがマンフロットの扱いとなっている GITZO GLEVEL というのがあった。

2種類あるサイズの大きい方(GLEVEL 2)は、同社の2型レベリング三脚に付属しているものと同等品らしい。センターポールの下端に取付けるタイプで、見た目は悪くない。

情報によると、標準装備となっているジッツォ2型レベリング三脚(GT2531LVL)のセンターポールは直径 28mm である。そのパチモンと思われる、シルイ(T-2204X)もキッチリ同サイズ(実測済)であり、このあたりはオリジナル(たぶん)製品との高い互換性を実現してしているシルイはエライ、と思うな。

価格的にも、ジッツオの名前がついている割には、¥1,070(税込送料込&即納:ヨドバシ)だったこともあって、これならイケそうだ。以前、ジッツオの製品などを導入する可能性は生涯無いと断言したこともあったが、ここにきて撤回しなくてはならない事態になったのだ。(^^;)

ただ、売り手の決まり文句である「在庫残少、ご注文はお早めに!」と表記されているし、次回入荷があるのか不明なので、いつまでもあると思うな親と金、状態であることは補足しておこう。

ジッツオ2型三脚センターポール用(G LEVEL2)は、その内径が実測 29mm で気泡管の直径も約13mm 弱と、オートポール水準器より僅かながら大きい。さすがにセンターポール用なので、フィット感はマンフロットより遙かにマシで、シルイ(T-2204X)にもピッタリである。

本来は、センターポール最下端に取付けるべき製品だが、シルイのセンターポールは収納時にいっぱい延ばした状態で脚を反転させる構造なので、縮長が約10mm ほど延びてしまう。また、その状態では円形プレート状になっている、三脚基部に邪魔されて少々見にくい。

個人的な使用法では、付属のショートポールを延長した状態で使用する事が多いので、ショートポールとの接合部に取付けた。この場所なら全長に対して 2mm の延長で済むし、位置的にも雲台ベースから 10cm ほどの距離なら見やすい。

問題の精度に関しては、そのまま中心点に合わせると約0.2〜0.3度ズレる。現在所有する水準器では、信頼性の高い UNX-5685 と HCL の2者との比較だが、サイズの小さい円形水準器、ましてやプラボディの製品である。ドライヤで熱して微調整とういう手もあるが、この程度のズレは致し方あるまい。

現実問題として、気泡管の精度ではなく取付の精度の方に問題がある製品が圧倒的に多い。しかし、そこまでの精度は、端っから追い込んで製品化されているものの方が少ないと思う。

シルイ(T-2204X)だけの問題とは限らないが、もう一つの欠点は、センターポールに回転機構がないことだ。

そのため、取付位置は見やすさを考慮して良く使うポジション、スポンジが巻かれていないポールの反対側に向くように調整した。この位置ではだいたい、円形水準器の12時方向の基準線に触れるか触れないかのポイントで水平になる。

三脚ベースで水平を出すこと自体、ある意味不毛な作業であることは、昨年のレベリングベース導入前後から感じていた。

だが、現状では Sunwayfoto DYH-66i 以上にコンパクトで高い精度を持った製品が見当たらないので、当面はこの構成でいくしかないと考えている。(もちろん、その価格も重要な要素であることは言うまでもないが、Acratech #1117 あたりには、ちょっと惹かれる)

撮影データに、どれほど反映されるのかは今後の結果待ちだが、自由雲台との組合せなら例外対処はある程度可能なので、あまり厳密に捉える必要もないだろう。したがって、あくまでもシンプルな構成による、必要最小限な機能としての追加であることは言うまでもない。

今回も少し遠回りになってしまったが、主な要因は毎度の情報不足である。何れのメーカもオフィシャルサイトでさえ、三脚のスペックに関しては、必ずしも全てが表記されていないことが多く、最適な製品選択に必要な情報を得るためには、それなりの苦労が伴う。

結果的に、汎用性の高い製品が無難であろうと妥協したのは、購入者の責任だが、事前に調べようとしても日本語による情報は限られている。やむなく、海外の情報(英語とは限らない)を頼りに、半ばエイヤア的な判断はこのようなアクセサリ類においても必要になる。

特に、そう簡単には実際の製品に触れることが出来ない地方に住む者にとって、情報の信頼度など贅沢なことは言っていられない事情もある。

ま、マンフロット(Manfrotto 032SPL Autopole Spirit Level)には、イザという時の予備としてそれなりの用途はあると思いたいが、少なくともシルイ(T-2204X)にはジッツォ(GLEVEL 2)の方が適している。

実は、この製品について書いている日に前後して、実際の使用感の確認も兼ねた、6月の定点観測と鉄撮りの練習シリーズの撮影に赴いたのである。だが、どちらも梅雨に突入した晴れ間を縫ってのスケジュールと、その移動距離もおよそ原付では無理な行程でもある。

したがって、本来シルイ(T-2204X)のコンパクト性を発揮できる状況ではないこともあって、それは次回以降に譲ることにした。


…ということで、ヒトツよろしく。
2014年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.06.08] Manfrotto vs Gitzo ?? 〜より転載&加筆修正