そして、今年3回目になる13日の金曜日である。
先日、久しぶりにセローで出掛けたのだが、情けないことにものの1時間も走らぬうちに、寒さに耐えかねて帰って来てしまった。もう、冬が近いことを実感した今日この頃。
何も出来ないままに終ってしまった感のある10月だが、晴天に恵まれた日が多かっただけに、まことに惜しいことをしたものだ。1年のうちで一番好きな季節は、なぜかいつも万全の態勢では臨めない。そういう巡り合わせになっているのだろう、来年こそはと思いながら、毎年毎年同じようなことを繰返している。
たぶん、暑い夏のうちに何か準備をしておかないと間に合わないのかもしれないが、毎度出たとこ勝負のキリギリスな生き方を続けている限り、それは難しいな。
ま、そんなこたあどうでもいいのだ。
「インドアで楽しむアウトドア」シリーズの第二弾、久しぶりに購入したスイスアーミーナイフのお話である。
ビクトリノックスとウェンガーは、長らくライバル関係にあって両社共にスイス陸軍の制式装備品として、ソルジャーという名のナイフを納入していたのは有名な話。
2008年頃までは、アルミハンドルの割とシンプルな外観だったのだが、最近ではモデルチェンジしてかなり大柄な製品になった。 残念ながらウェンガー版の方は、もう供給されていない。というか、会社自体が行き詰まったのか、2005年にはライバルのビクトリノックスに吸収合併されている。
前回 DP3M 版として晒したモノが、その旧タイプに相当するパイオニアというモデルだ。ただ、国内では未だにソルジャーの名前が使われており、旧モデルとはいえ人気は高く、特にウェンガー製のソルジャーは中古市場でも価格が高騰しがちである。
その他の製品も、つい最近まではウェンガーのブランド名で販売も継続されていたらしい。だが、かつてのウェンガーの工場で生産されていたものも、現在ではビクトリノックスブランドに統合されて、デレモンコレコレクションというラインナップの一部としてしか見ることはできない。
このシリーズでは、ウェンガータイプのスプリングを持ったハサミや、押し込むとロックされるマイナスドライバーなど、幾つかの機能は継承されている。だが、引き切りの缶切りやロゴマークはビクトリノックスのタイプに変更されるなど、何か中途半端な感じで今ひとつスッキリしない。
個人的には、ウェンガーも気に入っていたので、全く消えてしまうのは大変残念であり、心情的には同業者に買収されたことが果して良かったのか悪かったのか、微妙なところでもある。
しかし、そうは言いながらも自分自身で購入したものは、圧倒的にビクトリノックス製の方が多いのも事実。
最初に購入したモデルは、たぶん70年代後半のスタンダードタイプ、最後に買ったのは確か 2005年頃のサイバーツールだった。特に地方都市では、価格や入手の容易さにおいても両社にはかなり開きがあり、そんなことも影響しているのだろう。
だが、それ以上に何よりも、モノの良し悪しと好き嫌いは必ずしも一致しないのが、その主たる要因というか、悲しい現実だったりもする。
まあ、そのあたりについては、おいおい製品ごとの比較において言及するつもりだが、今回購入したのもビクトリノックスの方で、製品名はコンパクト(#1.3405)という見た目は地味目なモデルだ。
しかしてその実態は、名前のとおりコンパクトな2レイヤ構成なのに、メインブレードの他にハサミやマルチフックはもとより、ボールペンやピンまで装備するというスグレモノだ。いわゆる、標準的なオフィサーシリーズの中でも、ちょいと特殊なポジションの製品である。
何が特殊かというと、これまたおタッキーな話になるのだが、ビクトリノックスの基本的な構成要素について少々語っておこう。
二種類のツールが向かい合わせに配置され、それが1つの層(レイヤ)を形成するのが、一般的なアーミーナイフの基本になっている。その構成要素となるのが、大小ブレードと栓抜き缶切りの2レイヤで、これに何を追加するかで用途分けを可能にしている。
要するに、ユニット化されたレイヤを組合せることで機能を追加し、尤もらしい用途の名称などを製品名として命名すれば一丁上がりとなる、まことにお手軽で優れたシステムなのである。
この基本形となるスタンダードタイプというのが、スパルタンというモデルで、大小ブレードと栓抜き缶切りをセットにした、2レイヤモデルである。
一部の例外もあるが、メインブレードの背面には、お約束となっているコルクスクリューと、栓抜き缶切りの背面はリーマ(キリ?)が付属する。それに対して、サイバーツールというのは、ビット交換式の本格的なドライバセットやプライヤなども含む5レイヤモデルで、幅よりも厚みの方が上回る重装備タイプである。
だが、サイバーツールといえども基本形はスパルタン同様に、大小ブレードと栓抜き缶切りという2レイヤに機能を追加する形で構成されているので、必要かどうかは別にしてコルクスクリューも備わる。そこに加えて、ハサミ、プライヤ、ドライバの各レイヤを足し算すればおのずと5レイヤが出来上がるという、まあわりと単純な話なんである。
普段の生活でナイフを使っていると、ハサミの代用としては少々使い辛いと感じることもある。商品タグやほつれた糸など、ハサミの方が向いている場面も多いのだ。
その点、同社もラインナップにはぬかりがなく、基本形のスパルタンにハサミを追加したトラベラーというモデルがあって、標準のオフィサーシリーズでは最も売れ筋となっている。
だが、そのまま追加したのでは3レイヤ化は避けられず、サイズや重さの面では不利になる。使用頻度も激減した栓抜きや缶切りを外してでも、ハサミを持ったモデルが求められるのは必然である。
また、刃物に対する風当たりにも配慮して、ブレードレスなる製品も登場する最近では、クラッシックシリーズ(58mm)のような、小型なモデルのウケが良いのも納得出来るところだろう。
ただ、クラシックのメインブレードは、あまりにも小さく情けない。男が、いや漢がメインで使う道具としてはどうよという拘りというか見栄もあり、そんな風潮に抗ってまでもノーマルサイズに拘りたい、という気持ちもあるのだろう。そんな反動からか、かつてはスイス陸軍への導入実績もある、武骨な旧ソルジャータイプのアルミハンドルモデル(93mm)が一部には人気が高い。
しかし、平和な家庭内およびその周辺での使用が主戦場となる、そんな道具としての選択は、できればもう少し賢くスマートに立ち回りたい。
ビクトリノックス・コンパクトが、他と比べて特殊なのは、一般的なモデルが踏襲しているスパルタンの基本構成をあえて崩し、栓抜きと缶切りを1つにまとめた複合タイプになっている点だろう。
小ブレードを省略、それを大ブレードと同じレイヤでセットにすることで、結果として2レイヤの厚みでハサミの追加を実現している。また、そんな合理化だけに留まらず、たかが2レイヤモデルの分際で精密ドライバ(メガネドライバ)も、コルクスクリューに捻じ込まれる形で添付されているのだ。
その上、同社の製品ラインナップでは限られた上位モデルにしか搭載されていないボールペンやピン、背面にヤスリの付いたマルチフックを標準装備する点がスペシャルだ。特にこのマルチフック、現時点でも一応頂点に君臨する全部入りモデルのスイスチャンプにも無い、コンパクトだけの装備であり、何かとプレミア心を擽る。
ま、マルチフック背面のヤスリに関しては、スイスチャンプやそれに準ずるお歴々モデルには、もっと立派なヤスリがあるので、そこまでする必要もないんだけどね。
精密ドライバなどは、別売りで購入可能なオプションパーツである。コルクスクリューを搭載したモデルならどれでも装着出来るので、いろいろカスタマイズする楽しみも用意されている。だが、ボールペンホールやピンホールの装備は、ハンドル側の加工が必要なので、一般的には後からどうにかできるものではない。
いうなれば、スイスチャンプやサイバーツールなど、国内市場では最上位に位置する6レイヤ以上のモデル以外には見当たらない、贅沢装備なんである。
例外は、トラベルセットという製品名でラインナップされている、かなり高価なセットに含まれる4レイヤのハントマンぐらいだろう。ハサミに加えてノコギリを装備する、通常のハントマン(#1.3713)のスペシャルバージョン(#1.3715)で、単品販売されていないプレミアムモデルである。
また、海外モデルには同じく4レイヤのエクスプローラに、ノーマルには無いボールペンやピンを追加装備した Explorer Plus #53792 というのもあるらしい。
バリエーションといえば、標準オフィサーより少し小型の、スモールオフィサーシリーズという製品群もある。標準オフィサーとの差は、ほんの 6~7mm でしかないが、 自分自身あまり手が大きい方ではないし、 実際に手にしてみると、これがまことに按配が良いのだ。
理想を言えば、このコンパクトの機能も、このシリーズで実現してくれまいかと思う。手の中にスッポリと隠れてしまうこのサイズこそ、ポケットナイフのあるべき姿だろうと思うのだ。
その点、ウェンガーの製品は、全般にビクトリノックスよりもわずかに小さい。いずれも 85mm という大きさであり、そんなサイズ的な点もウェンガー贔屓の要因だったりする。
実は、スモールオフィサーシリーズの存在を知ったのは、かなり後になってからである。残念ながら、以前に比べて国内向けのモデルラインナップも整理されてしまい、今となってはまともなルートでは手に入れにくいモデルも少なくない。
元々このシリーズは、「世界一小さな道具箱」を標榜したいが為に、ビクトリノックスがデッチ上げた製品ラインである。ウェンガーに対抗して、わずかに1mm だけ小さい全長 84mm というサイズからも、他社に世界一を名乗られるのは我慢ならんという、同社の傲慢さが作らせたに違いないのだ。
しかし、実際の製品を細かく見ていくと、その傲慢な姿勢故に同社の弛まない努力の跡が随所に見受けられ、製品に対する拘りも並大抵ではないことが窺える。
ぶっちゃけ、製品としてのデキは、ビクトリノックスの方がかなり上だと感じている。あくまでも個人的な感想だが、使い込む程にその差は外見以上に拡がる。また、購入する場合も、理路整然とした製品ラインナップのビクトリノックスに比べて、ハチャメチャな雰囲気が漂うウェンガーという図式が成り立つように思う。
ただビクトリノックスの場合、前述のスモールオフィサーシリーズのように、時には思い切った合理化も行われる。当然、お気に入りモデルが消滅という憂き目に遭うこともあるわけで、いつかは手に入れようと考えていた製品も、知らぬ間に廃盤になってしまった例も多い。
一方、ウェンガーの製品は、新旧モデルを比較しても、ライバルのように外見以外の改善点を見つける楽しみはあまりない。製品ラインアップも一般的に用途が不明なモデルも多く、どう見てもさほど売れそうにもないモデルをいつまでも供給し続けている、そんな印象が強い。
おそらくそんな違いの積み重ねが、両社の明暗を分けた所以かもしれない。この業界における多少の淘汰というのは、主にウェンガーの方に起こったわけで、冷静な視点に立てば、他社に買収されなかったのがせめてもの救いと言えなくもない。個人的には好きなメーカだが、ある意味自業自得で、まあ仕方ないかなというのが正直な感想だ。
そんなこんなで、中々入手し辛い廃盤モノや海外モノなどにも捜索範囲を広げると、歴史が長いだけに止めどなく物欲をそそられるモデルに出会すことも多い。コレクタにとっては、そんなところもビクトリノックスやウェンガーなどのスイスアーミーナイフ群は、奥が深いと感じるところだろう。
振り返れば、かれこれもう40年以上に渡って常に手元にあって、未だに問題なく稼働していることを考えれば、それはそれで大したもんだと思う。 記念すべき初代モデルは、現在ではどのモデルにも標準装備されているピンセットや爪楊枝がない、シンプルな構成である。
モノが刃物類だけに、実用に供している製品は切れ味に多少の劣化はある。しかし、後年比較の意味で何種類か追加購入したウェンガー製品も含めて、その殆ど全てが道具として使えなくなったものはない。(ま、紛失したモノはこの限りではないが、…)
以前、キーホルダ代わりに鍵束と一緒にぶら下げていたクラッシックでさえ、そのお役目をレザーマンのマイクラに譲って以降も健在である。ハンドルもボロボロで、つまようじは行方不明になって久しいが、ナイフのブレードやハサミ、ヤスリの類いは十分に使える状態を保っている。
マイクラの方はといえば、ステンレス製の筐体はその後十年近くの酷使にも全くの劣化知らずで、この辺りはセルロイド製のハンドルを有するビクトリノックスとは比較にならない、優れた耐久性を見せる。
確かに、レザーマンの実用性は認めざるを得ないところではある。しかし、ただ実用的なだけでは面白くはないので、どうしてもビクトリノックスおよびウェンガーなどのタイプ、SAK(Swiss Army Knives)に贔屓目になる。
そこには、機能だけでなく美しさみたいなものも重要な要素として入ってくるからこそ、アウトドアだけでなくインドアでも楽しめる所以だろう。まあ、そのあたりの比較は、次回以降に譲ろうと思う。
まだまだ、暫くは続きそうな雑談である。
…ということで、今月もヒトツよろしく。
2015年11月某日 Hexagon/Okayama, Japan
http://www.hexagon-tech.com/
[2015.11.13] 雑談の散歩道:其の参 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく
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