2015年12月8日火曜日

雑談の散歩道:其の伍

今年も、ついに12月がやってきた。

だからといって、何が嬉しいわけでも、とりたてて慌ただしいわけでもないのだが、何となくバタバタしていないと歳末らしさも盛り上がらない。

この時期、自分用のクリスマスプレゼントを買うことが当たり前になって久しい。そりゃ確かに、貰って嬉しい花一匁ではあるものの、本当に欲しいものはやはり自分で選びたい、というのが世知辛い本音だったりする。

そんな拘りを捨てきれない人の為に、クリスマス気分で一杯なアマゾンへのリンクも充実させたので、そのへんもひとつヨロシク。

先月あたりには、ビクトリノックスからも「クライマー・スペシャルエディション・ホワイトクリスマス」という限定版も発表されたようだが、残念ながらショップ限定らしくアマゾンでは取扱がない。

ま、この手の商品、私らのような安売りでなけりゃ買わない連中など、端っから相手にしていないのが毎度のお約束になっている。

それにしても、なんでトラベラーでなくクライマーなのか、国内向け製品の命名法に関する矛盾が発覚したようなものだが、今さら変えるわけにもいかない、お家事情も見え隠れする。

ま、そんなこたあどうでもいいのだ。

「インドアで楽しむアウトドア」シリーズの第二弾、久しぶりに購入したスイスアーミーナイフのそのまた続きである。


欄外右の写真、その中央はスパルタンなんちゃってリミテッドエディッションである。

要するに、純正ランヤード付けただけのパチモンで、限定版というのはそのハンドル以上に真っ赤なウソだ。

まあ本物だって、正味の違いといえばフレームにシリアルが刻まれている程度でしかないわけで、ぶっちゃけシリアル番号ぐらい全製品に刻まれていて当前だろうが、とも思う。

せめて、メインブレードにでも何らかの刻印でもあれば多少価値も上がるかもしれないが、ヒストリーブックレットが付属している程度で、本体そのものは今ひとつ情けない限定版なんである。

個人的には、いわゆる限定版商売というのは好きになれない。機能的に大きく違わないにも拘わらず、たいていは不当に高い値段が付けられていることが多く、単に目先を変えただけのモデルが少なくない。それでも、数が少なけりゃ価値が上がるだろうという、非常に安易な考え方にムカツクというのがその理由である。

自分にとっては、ひとつのモノでしかないのだから、いったん手に入れてしまえば、それ以外に何個あろうが関係ない。だいたい、自分が持っていないモノの数でその価値が上がったり下がったりするのは、どう考えてもおかしいだろう。

私の場合、お気に入りの道具というものは、たいていバックアップを兼ねて複数所有することが多い。メーカの都合で供給が断たれることもあるし、過失による紛失などもありえるから、手元に替わりがないと安心して思う存分使うことも出来ない。

従って、気に入った道具類に関しては、使い勝手に影響する大きな変更もなく、長年に渡って安定供給し続けてくれることが、何よりの価値であると考えている。

とはいえ、我ラインナップにも、美し過ぎて使えないとか勿体無くて使えないというアホな理由で、道具としての実用性に大きな問題を抱えているモノも少なくない。

所有するだけで使えない道具の価値は、せいぜい金銭的な換算による判断ぐらいしか出来ないが、自分にとっての純粋な価値と必ずしも一致するとは限らない。

ましてや、それにいったい幾ら払ったかなどは、購入前に予想した価値への対価に過ぎず、本来モノの価値基準にはなりえないのである。

予想価値、または期待価値が価格と吊り合うか、または対価よりも期待値の方が大きくなった時点で購入が決定される、というのが一般的な消費行動の原理だろう。そして、購入後にそれが正しければ満足するし、間違っていれば後悔する。

だが、満足したからといってそれでお終いになるわけではなく、再びその満足感を求めて新たな消費行動へ走る。逆に後悔したとしても、次こそ失敗しないぞと心に誓って、やはり新たな消費行動へ走るので、どっちみち結果は大きく違わないのである。

ビクトリノックスの場合、ある程度機能数をカウントすることで、価格を決定しているように思う。国内向け製品を例にとれば、おのずとメーカの考える各機能に対する価格基準が明確になってくる。

要するに、大盛りにするかチャーシュー入りにするのか、はたまた両方選んだ上に、なお卵まで入れるべきなのか、…。ラーメン屋の店先で悩む前に、それぞれ具のコスパについて考察してみよう、という試みである。

欄外の価格表というか参考上代一覧を参照しながら、各モデルに対する傾向と対策のようなものを探ることで、最良のパートナー選択の一助になればと思う。

標準オフィサーのカテゴリでは、横綱スイスチャンプは別格として、それに次ぐのがハンディマンだ。最もロープライスなスパルタンとの間には、参考上代で5千円近くもの開きがある。その価格上昇の元になっているツールは、プライヤ、ハサミ、ノコギリ、ヤスリの4レイヤで、基本レイヤに加えて合計6レイヤで構成される。

メインツールとしては4つ増えただけに過ぎないが、実際にはコンビとなる背面ツールも存在し、同社お得意の機能数カウントとしては、かなり大きな違いとなる。

今のところプライヤには背面ツールが存在しないので、レインジャーとハンディマンの差違は、純粋にプライヤ機能のみである。この辺りの上位機種同士では、各レイヤの機能が共通しているから、単純な機能の足し算引き算が可能だ。

したがって、ハンディマンからプライヤを取除いたものがレインジャーで、そのコルクスクリューをプラスドライバ変更したのがスペースシャトルだ。

このスペースシャトル、プライヤも無いくせになぜか価格はハンディマンと変わらない、コスパ最悪の変なモデルだ。詳しい事情は知らないが、たぶん NASA に対する上納金みたいなものが含まれているのかもしれない。

そのレインジャーからノコギリを取除くと、マウンテニアになり、ヤスリを取除くと、ハントマンになるように見えるが、ちょっと違う。

上位モデルでは、ノコギリの背面ツールはマイナスドライバ、ヤスリの背面ツールはノミである。各々それらレイヤの入れ替わりだけなら話は簡単だが、マウンテニアやハントマンに搭載されるヤスリやノコギリのレイヤには、なぜか背面ツールが存在しないのだ。

また、価格的には上位に近いエクスプローラはちょっと特殊なので後回しにして、ここからは下位モデルから積み上げて行く方向で、各ツールの単価について参考上代から類推してみる。

スパルタンに、ハサミレイヤを追加したモデルがトラベラーで、ノコギリレイヤを追加するとキャンパーになり、その両方を追加したのがハントマンである。背面ツールは、大小ブレードとセットのコルクスクリュー、栓抜き缶切りとセットのリーマ、そしてハサミの裏側にはマルチフックといった具合に、それぞれが追加される。

前述のように、下位モデルのノコギリレイヤには背面ツールがない。ハサミのないキャンパーの背面には、コルクスクリューとリーマしかないのでちと寂しいが、価格もそれなりに少し安く設定されている。

たとえば、トラベラーとスパルタンの価格差は、純粋にハサミレイヤの値段だろう。スパルタン(¥3,200)とトラベラー(¥4,800)の価格差は¥1600 で単純に考えれば、それはマルチフックも含んだハサミレイヤの値段ということになる。

トラベラーとハントマン(¥5,500)の価格差¥700 は、そのままノコギリの単価と予想出来る。また、ノコギリをヤスリに替えたマウンテニア(¥5,700)の価格は、ハントマンより¥200 高いので、ヤスリの単価は¥900 だろう。

アングラー(¥5,700)は、マウンテニアのハサミからプライヤに変更しても尚、価格が同じであることから、ヤスリではなく針外しになっていることが影響していると予想される。従って、針外しの単価はヤスリに比べて¥400 安の¥500 ということになる。

次に、上位機種におけるヤスリレイヤの単価をレインジャーを元に計算してみる。

メインツールとしてはヤスリが増えただけにしか見えないレインジャーだが、 ハントマンにヤスリ分の¥900 を追加しても¥6,400 にしかならない。

その理由として、ハントマンのノコギリは背面ツールのマイナスドライバがないので、レインジャーの価格(¥7,000)の背景には、その背面ツールが関係しているに違いない。どうやら、そのマイナスドライバと、ヤスリの背面ツールであるノミと合せて、合計¥600 の追加料金が上乗せされているようだ。

以上のことから、上位モデルは下位モデルとの単純な比較は出来ないのだが、あえて無理矢理単純化してみる。

要するに、単純な割り算で各々¥300 と想定すれば、それぞれに背面ツールを持つノコギリやヤスリの値段も類推出来ようというものだ。そこで、上位モデルに搭載されるノミ付きヤスリの単価は¥1,200、マイナスドライバ付きノコギリの単価は¥1,000 とする。

また、アングラーやマウンテニアまでの中位モデルに関しては、PLIトラベラーPD を絡めると計算しやすい。

PLI トラベラー PD の単価は¥6,800 と比較的高価だが、¥1,600 のハサミとその差額から¥2,000 と推測されるプライヤの両方が搭載されている。その合計金額¥3,600 を差引くと、ハイ御名算、キッチリ¥3,200 という基本形スパルタンの価格になるのだ。

プライヤとハサミの差額¥400 は、針外しを共通項として通分すれば、そのままアングラー(¥5,700)とフィッシャーマン(¥5,300)の価格差に合致する。ハサミ(¥1,600)とヤスリ(¥900)を追加したマウンテニアの価格(¥5,700)も、スパルタンとの差額にピッタリ一致するので、これはもう疑いの余地はない。

背面ツールもない割に、ツール単価としては比較的高価なのがプライヤである。それを搭載するアングラーは、ハサミと同時に背面のマルチフックも失うので、価格的には同等のマウンテニアや、それより安いフィッシャーマンに比べても、何か損をした気になる。

フィッシャーマンは、いうなれば PLI トラベラー PD からプライヤを針外しに差替えられたモデルだ。似たようなハンドルで、ハサミと引換えにプライヤを選択したアングラーは、コルクスクリュー版だから厳密には別系統だが、単価的には変わらない。

嘗ては、ハンディマンの PD 版ともいえるクラフツマンというモデルも存在したらしいから、たぶんアングラーの PD 版とか、フィッシャーマンのコルクスクリュー版なんてえのもあったのかもしれないな。

ついでに、基本となるスパルタンの単価だが、メインブレードレイヤ¥1,400、栓抜き缶切りレイヤ¥1,200、爪楊枝とピンセットを含むハンドル裏表で¥600 としておく。(ホンマかいな?)

ここまでの計算により、算出されたお品書きは以下のようになる。

 ◎プライヤ(背面ツール無)    :¥2,000
 ◎ハサミ(マルチフック付)    :¥1,600
 ◎上ヤスリ(ノミ付)       :¥1,200
 ◎上ノコギリ(マイナスドライバ付):¥1,000
 ◎針外し(鱗落し&スケール付)  :¥ 500
 ○並ヤスリ (背面ツール無)   :¥ 900
 ○並ノコギリ(背面ツール無)   :¥ 700
 ●虫眼鏡&プラスドライバ     :¥?
 ○ブレード(大小)        :¥1,400
 ○栓抜き&缶切り         :¥1,200

価格的には中位以上に属するモデルでも、エクスプローラとコンパクトの両機種は少し事情が異なる。まあ、コンパクトに関しては、他に比べる機種がない孤高の存在なので、放っておくしかない。

だが、エクスプローラについては、スイスチャンプを引合いに出すことで、何らかの手掛かりが得られそうだ。で、残る疑問はスイスチャンプとエクスプローラに共通するツール、虫眼鏡とプラスドライバである。

上記の内で◎(二重丸)の付いた、上位モデルのレイヤ単価を合計すると¥6,300 になり、基本となるスパルタンの価格に追加すれば¥9,500 になる。

これを、スイスチャンプの参考上代から差引くと、たったの¥300 にしかならず、これではボールペン代にもならない。逆に、エクスプローラ(¥6,500)とトラベラー(¥4,800)の差額を計算すると¥1,700 となり、これまた計算が合わない。

これはあくまでも私見だが、というか今迄全てがそうなんだが、虫眼鏡とプラスドライバのレイヤが、マルチフック付のハサミレイヤ(¥1,600)より高いというのは、如何なものかという気もする。

また、背面ツールこそ無いとはいえ、並ノコ(¥700)より安いというのも、ビクトリノックスの値付けとしては俄に信じ難い。よって、上ノコあたりと同等の価格(¥1,000)と見るのが、妥当ではないかと思うのだ。

おまけに、ボールペンやメガネドライバも標準添付されることを考え合わせると、これはもう、スイスチャンプが断然お買い得で、エクスプローラが不当に高い値段を付けていると判断するしかないのである。

本来の設定価格は、ハントマンのちょい上、マウンテニアあたりが相応しいと思う。もしくは、海外モデルのように、ボールペンやメガネドライバも含んだ、エクスプローラ・プラス(#16705)としてなら、まあ納得できるかもしれないな。

ところで、トラベラーの本国版における名前(略して本名?)はクライマーというのだが、PD の付くモデルは本国版にはない。特に、PLI トラベラー PD などの国内版は、あまりにも命名法に無理が有り過ぎる気がする。

此方も本名は、デラックスティンカーである。元々ティンカーというのは、国内向けの製品ではスパルタン PD にあたり、標準オフィサーの中でもコルクスクリューではなく、ドライバ搭載モデルに与えられた名前だ。

残念ながら、そのコルクスクリュー版デラックスクライマーに相当する PLI トラベラーの国内モデルはない。また、トラベラー PD もスーパーティンカーと呼ばれて国内版のティンカー(84mm)は、本名スモールティンカーだそうだ。

いずれにしても、機能が追加される度に、いろいろな名前が考案され検討された歴史がある。海外モデルとの不一致も、目先の営業戦略で安易に決めるから、矛盾したり破綻する。まあ、商標の問題もあったりするから、そう簡単ではないんだろうけどね。

そんなわけで、ビクトリノックスの価格表をネタに遊んでみたのだが、意外なほど計算が合うというか、半ばこじつけとはいいながら、見事なほどに辻褄が合ってくれたように思う。

これは、一重にビクトリノックスの機械的な精度や品質管理だけでなく、価格設定においても同社の極めて合理的な考え方や、政策が利いていることの現われだろう。

一方で、豊富な流通量のおかげか、相当なお買い得感も得られるほど安く手に入る。実売価格に着目するなら、これだけの精度と耐久性をもち、尚且つ道具として美しさという面でも他に類を見ない製品が、これほどリーズナブルな価格で提供されることに、大きな歓びを感じずにはいられないのだ。

そんな流通価格の背景には、他の多くの製品と同様に、実際は彼の国で製造されているのではないかという噂もある。しかし、以前の写真機材においても精度と価格のバランスは経験済みで、仮にそれが事実であったとしても、必ずしも否定的に捉えることが出来ない。

確かに、何でもかんでも安けりゃおっけ〜、中華万歳ではないし、流石は高級品の代表、時計産業を持つメイドインスイス恐るべしと思いたいというのもある。

高級品=高価格だけではないことの証明こそが、嘗ての日本の誇りであったはずで、今の日本に求められるのはそんな製品ではないのだろうかと思う。

スイスに出来るなら、日本だって上手くマネすりゃ…と、何とかなってきたのが高度成長期だったわけで、それならまだ可能性もある。だが、流石に中華相手に、価格と精度の両方で勝てる気はしないよなあ。

以上、スイスアーミーナイフの、主にコスト面について述べてみた。肝心のパフォーマンスについては次回以降に譲るが、コスパ自体は個人の価値基準に応じて変化するので、各自で判断して頂きたい。

てなわけで、もう暫くこのシリーズは続きそうな予感。



…ということで、今月もヒトツよろしく。
2015年12月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2015.12.08] 雑談の散歩道:其の伍 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

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