2015年6月9日火曜日

原付撮影行の練習:其の壱

撮り合えず、慣らし運転を兼ねた練習編である。

ヤマハ発動機が、セローに与えた基本コンセプトに「二輪二足」というのがある。林道などでは積極的に足をついて、ライダー自身も走破性の補助となるべく助け合う必要があり、そのためにシート高を低く設計し足つき性の良さを確保しているというのだ。

また、「走って、曲がって、止まる」というのが、一般的な自動車や単車の基本概念の三要素だが、オフロードバイクの場合には、もうひとつ「転ぶ」という要素が加わって、初めて成り立つようなところもある。

だからというわけでもないのだが、購入後二週間にも満たない先月末、ついに初転びである。正確には二転び半、といったところかな。

仕事の都合で、朝一から児島方面へ出向いた序でに回った四国編である。

といっても、よもや四国に渡って林道ツーリングになろうなどとは、全く予想してもいなかった。作業が早めに片付いたことで、昼前になってからの例によって気紛れである。

当初、与島あたりまで行って帰れば時間もつぶれてよかろうという、カルイ気持ち乗り込んだ瀬戸大橋。だが、軽四輪自動車と同等の料金を取られることに気づいて、そのまま引返すのはあまりにも悔しいので行ってしまえ、となったのである。

ただ、この日は撮影より仕事主体の簡易装備のシミュレーションも兼ねていた関係で、カメラは DP2M のみ、三脚はシルイのトラベラーのみである。

タンクバッグを DP2M およびマンフロットのミニ三脚、その他撮影補助機材の入れ物として搭載、シートバッグは主に MacBook Air やハードディスク、業務関連の書類等を衣類と共に詰込んだ。

普段、車での移動では助手席などに適当に転がしているようなモノをシートバッグに詰めたに過ぎない。取り立てて最適化も行っていないし、あくまでもテストケースの一環である。

ドライブスプロケットを交換したとはいえ、風の強い瀬戸大橋の上をセローで100km 以上を維持するのは、それほど楽しい作業ではない。特に、この日はハーフヘルメットにゴーグルというクラシカルな出立ちであり、飛ばすと風切り音が酷い。

そんなとき、タンクバッグの上に伏せるようにすると、ミニスクリーンのおかげで僅かながら防風エリアが作られているのに気づく。この時ばかりは、ツーセロのより大型のアドベンチャースクリーンなら、さぞやより大きい効果があるだろう、と少し後悔した。

それでもあまり面白くはないので、他車の流れに乗って追越し車線を走るのは早々に諦め、開き直って走行車線を80km程度で流す。が、あまりノンビリ景色を楽しんでいると、大型トラックにも追い越されるので、走行ペースはバックミラーを見ながら適当に調整する必要がある。金を払ってまで、自分のペースで走れない有料道路は、これだから嫌いだ。

とりあえず、与島サービスエリアで一旦降りて、その後の段取りを考えることにする。天気も良かったので、物見遊山な観光客よろしくその辺の写真を撮ってみる。

ぶっちゃけ四国へ渡ったら最後、本州へ戻るにはどの道を選ぼうが、タダでは済まない。どうせ金を取られるなら、このまま瀬戸内海沿いを走ってしまなみ海道を回って帰ろうか、などとお気楽な気分にもなる。

とはいえ、瀬戸中央を利用するのは、たとえ五十円でもケチって児島から最短の坂出北まで、後は地道を走るのがお約束となっている。丸亀からは県道21号線を宅間付近まで通ってみるが、あまり海沿いに拘っても遠回りを余儀なくされるだけだ。

観音寺、豊浜、川之江あたりまでは、南方向への移動になるので国道11号線を通るのが近道である。かといって、それではあまりにも面白くないので、国道に比べると交通量の少ない県道35号、224号を経由して観音寺を目指す。

財田川沿いの土手を、海に向かって走る県道49号線は再び県道21号線に合流して、その先にある琴弾公園(ことひきこうえん)に行き着く。銭形展望台と名付けられた、琴弾山々頂へ登る道は一方通行になっており、ほんの短い距離でしかないのだが、対向車を気にせず結構楽しめる山道だ。

肝心の、有明浜を臨む展望の方は観光客も多く、あまり興味もなかったので適当に眺めただけで降りてきてしまった。従って、後から知った、砂で描かれた寛永通宝は拝んでいない。それよりも、セローで有明浜に突込んで、後輪が埋りそうになりながらも、やっとの思いで脱出できたことの方が印象深い。

その後、再び県道21号線を豊浜まで行った所で、海沿いの道は国道11号線に呑み込まれる。ここから、川之江の工業地帯を過ぎるまで、渋滞に付合わされる。

単車の場合、ノンビリ走りたいなら極々ローカルな市町村道を選んでも、さほど困ることもない。たまに行き止まりに出会したりもするが、車と違って多少狭い道でも迂回できるから良く利用する。だが、初めて訪れる地域では、状況も掴めないので多少遠慮もするし、必ずしも景色も良い所ばかりではない。

もう少し走れば、県道13号線にでも逃げようかと考えていた矢先、伊予寒川(いよさんがわ)あたりまできて、ふと南の山々を眺めて絶句する。

それまでは、海の方ばかりを見ながら走っていたのだが、海岸線から比較的近い位置に1000m級の山々が連なっている景観は、山陽地域ではあまりお目にかかれない。まるで、蒜山高原を金甲山のあたりに持ってきたようなもんだから、それはもう壮観な眺めである。

松山自動車道の背景に見える連山は、四国中央市の翠波高原の翠波峰(すいはみね・892m)を始めとする、鋸山(こぎりやま:1017m)豊受山(とようけやま:1250m)、赤星山(あかぼしやま:1453m)などで構成される、法皇山脈だ。

で、急遽西へ向かうしまなみ海道へのルートは、南の山岳地帯へ変更されたのである。何の情報もないまま、自動車道の高架をくぐった所でたまたま見つけたのが、林道観音谷線の看板である。

iPhone のマップで確認するが、途中からは途切れているので、いったい何処へ繋がっているのやら全く不明だ。まあ、案内板まで用意されているぐらいだから、それなりに整備されている道なんだろうと、高を括って登り始めたのだが、…。

帰ってから確認したのだが、グーグルカーも直前で引返しているようだ。途中、久しぶりに渓流写真でもと単車を停めて撮ってみるが、時刻も既に三時近いので、それほどノンビリもしていられないし、林道の先が気になってイマイチ落ち着かない。

もう少し、標高の高いところの方がそれらしい景観も期待できるのではあるまいかと早々に切上げて、上を目指す。耳元が開放されているハーフヘルメットは、山道などでは鳥の囀りや、周囲の音が良く聞こえて快適だ。もちろん、この後の過酷な道程も、この時点ではまだ気づいていないのだから、気分も爽快である。

まあ、林道としては一般的なのかもしれないが、落石、落木に加えて未舗装部分も多くあったりで、岡山の県北あたりの県道とは、比較にならない過酷さであったことは確かである。それでも、なんとか海抜900m近い、翠波峰の頂上まで辿り着くことができたのは幸運だった。

しかし、ラッキーも続かず、青息吐息で登り切った林道からの解放感と、さすがに平日とあって訪れる人もいないのをいいことに調子に乗ってしまい、展望台へ登る15〜6段程の階段を登ろうとして失敗する。

あと最後の1段、という所まで来て勢いを殺してしまい、前輪を引っかけて止まってしまった。慌ててアクセルを開けたために、そのまま直立してバンザイである。まるで、ロデオの暴れ馬状態になって振り落とされたようなもので、そのまま右方向に倒れ込んでしまう。

焦って引き起こしたものの、再度跨がろうとしてシートバッグに足を引っかけ、そのまま二段ほど後退する。今度こそはと、半クラでじんわり登るのだが、上がり切ったところで右足に力が入らず、立ちゴケである。

どうやら最初に転んだ時、クランクケースと地面の間に足を挟まれたらしい。二度目に起そうとした時、踝に激痛が走って初めて気がついた。結局、起せずそのまま倒れてしまうが、再度起すのは暫く諦めて、その場に単車と共に横たわったまま頭を冷やし、状況を分析する。

タンクから、僅かにガソリンが流れ出している。ブレーキレバーもかなりひん曲がっているが、折れてはいないからなんとかなるだろう。右足のダメージも、時間と共に痛みも治まってくる。

一応、踝まではカバーするライダーシューズのおかげで、被害も当初危惧したほどではないようだ。腰にも多少痛みはあるが、シートバッグがクッションになって幸いしたように思う。

あまり転倒した状態で放置しておくと、ガソリンがどんどん流れ出してしまうので、なんとか左足一本に力を込めて引き起こす。マフラーカバーに小さなキズがある程度で、右サイドに大きなダメージはなさそうだ。

エンジンを再始動し、その辺りをゆっくりと走ってみるが、直ちに走行に支障が出るほどではないことに安心する。 展望台の頂上まで登り、一応記念撮影をする。時刻は16時をとうに回っており、さすがに帰路が心配になってくる。

金砂湖(きんしゃこ)まで降りて、銅山川沿いの国道319号線を一路新宮ダム方面を目指すが、いったいどの程度の距離があるのかも、全く把握していない。また、この国道319号線が曲者で、四国の酷道を舐めたらイケンなという思いを新たにしたのだ。

とにかく、愛媛県から徳島県に入って三好に至るまで、それこそ坂出に向かう国道32号線へ出るまで、延々と林道のような道が続くのである。

それも、岡山県北にあたりにありがちな、谷間を縫って通る県道などと違い、山の中腹のそれもかなり標高の高いところを通っているので、中々気が抜けない。おかげで、眺めは大変良いのだが、それを楽しむ余裕がない。あまりにも無計画に遊び回ったせいで、日没までの時間もあまり残っていない。

曲がったレバーのせいで、フロントブレーキのコントロールが難しい。途中、何度か前輪をロックさせそうになるが、無理やり曲げ直しても折れてしまうと厄介なので、とりあえず現状維持である。

それよりバンザイした時、リヤフェンダーを止めていたネジ穴が割れて外れているようだ。ボコボコにひん曲がったナンバープレートは、叩けば直るだろうが、特定の回転数でリヤフェンダーが共振しているのが鬱陶しい。

やっと国道32号線出て、池田を通過したのは既に18時を過ぎている。途中、満濃池方面に向かう県道197号線にも心惹かれたのだが、泊まりになっても不味かろうとグッと我慢で、坂出までは素直に真っ当な道を通って帰ることにした。国道32号線も、もう少し明るい内に通ることができれば、より楽しめたのではないかと思う。

坂出北インターから、瀬戸中央に乗った頃には辺りは真っ暗になっており、なんにも見えない瀬戸大橋を同じ料金を払って通るぐらいバカバカしいことはない。まあ、今回はスタートが遅過ぎたので、それも致し方なしなんである。

というより、やはり四国を訪れるのは、日帰りでは少々きつい。もっと計画的な、それこそ泊まりも含めた長期戦の構えが必要だろう。そんな、ロングツーリングにも思いを馳せながら、帰り道には足の痛みも忘れていた。

四国ツーリングのほんのさわり程度に過ぎない、今回の練習行でした。


…ということで、ヒトツよろしく。
2015年06月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2015.06.09] 原付撮影行の練習:其の壱 〜より転載&加筆修正

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