2013年11月20日水曜日

時を知ること

雑談なヒマネタを一席。

以前、ここでも紹介したことのあるスイス国鉄の時計、そのデザインを使用したスイスのモンディーン(Mondaine)というブランドの時計に、外見のデザインだけでなく、その特異な動きを再現した製品がある。

秒針が58秒で一周し、正時の位置で2秒停止後長針を一分進めてから、停止していた秒針がおもむろに動き出す、という見ていてなかなか楽しい時計だ。

stop2go と命名されたその時計、並行輸入品としてはすでに9月あたりから出回っているようだが、正規代理店?での扱いも今月から始まったそうだ。

何年か前にも製品化されたが、故障が多く自然消滅的にカタログ落ちになってしまったようで、満を持しての復活モデルということだが、はたしてそのデキはどの程度のものなのだろうか。

機能紹介の動画を見る限り、ムーブメントはクォーツであるにも関わらず、秒針は見慣れたクォーツ時計のカクカクしたものではなく、一秒を何回かで刻んでいる。

オリジナルのスイス国鉄の時計が、スイープセコンドと呼ばれる連続した回転(に見える)秒針の動きであるのに対して、一秒を4振動程度で刻むお勤め品の機械式時計にありがちな仕様に遺憾の意を示すマニアもいるようで、あまり盛り上がっているようには見えない。

スイープセコンドといえば、1971年の音叉式時計シチズン・ハイソニックである。60年代後半からセブンスター、クリスタルセブンなど、シチズンを愛用してきた身にとっては懐かしい響きがある。

さすがに音叉式時計のように毎秒 360 振動とまではいかないものの、機械式でもお高いものは毎秒8振動(28,800/h)というのがお約束のようになっており、振動数が精度を識別する判断材料にもなっている。

電源の供給源であるバッテリーも、時計用としては掟破りなデッカいコイン型リチウム電池(CR2032)を採用している点でも、その機構自体が一筋縄では行かないことを物語っている。どうせ電気仕掛けで秒を刻むなら、スイープセコンドのような連続した動きを再現できなかったのだろうか。

ある程度高い精度を持ってそこまで再現すれば、ブランドに対する認識も変わっただろうと思うし、その価格に見合う評価も得られたに違いない。

モンディーン自体、所詮雑貨屋時計に過ぎないとの否定的な意見もあるようだが、それならいっそもう少し安けりゃ、少なくとも余興としては面白いモノになったはずだ。

昨年、アップルがスイス国鉄のデザインを無断でパクったことで、一般にも広く知れ渡ることになり、正規ライセンス先であるモンディーンも間接的とはいえ、少なからず潤ったはずだ。

その結果が、今回の stop2go 復活になったのかどうかは知らないが、スイス国鉄に対して大枚(17億円)払ったにも関わらず、当のアップルは一年ほどでまた iOS の時計のデザインを変えている。その経緯は、外野席からはよく分からんのであるが、たぶんいろんな裏事情があるのだろう。

マニアックなモノほど、拘りに対して一手間を惜しんで手抜きをすれば、おのずと評価は下がる。その点においても、共通した残念感が漂う両者であるが、現状そこそこ売れていれば問題はないと考えているのかもしれない。

これは親父キャグだが、モンディーンの綴りもローマ字読みをすれば、モンダイネェ(Mondaine)と読めるところも笑えるよね、ね、ね。(^^)

恥多き80年代末期、庶民まで浮かれたバブル期に購入して以来、長年愛用している某機械式腕時計のゼンマイがその寿命を迎え止まってしまった時、当面のつなぎとして安い電池時計でもと、久しぶりに最近の時計事情に触れる機会があった。

いくら何でも一万円ぐらいはするだろうと考えていたのだが、その価格の下限は予想を大きく下回っていた。まともな腕時計の格好をしたものでさえ、千円以下がざらに存在する事実に軽い眩暈を覚えながらも、元来の時計好きにはちょっと嬉しい事態でもあった。

もちろん、元はどこかの高級ブランド品なんだろうが、形としては気に入ったものの、およそその値札に見合う価値までは見いだせないモノもが多い。しかし、パチモノ承知であればまんまそのデザインの安物がゴロゴロしているのが、時計業界である。

当面は、オーバーホール費用捻出の目処が立つまでの繋ぎとして、その後は車載用の時計としての転用も視野に入れながら、視認性第一のデザインを考慮してミリタリーウォッチのジャンルから物色していた。

ミニには標準で時計さえ装備されていないのだが、裏を返せば自分の気に入った時計を選択できるというポジティブシンキングに繋がるのだ。

コレはと思うものが何種類かあったのだが、そんな中で少し離れていても、視認性の良い航空機の計器のようなデザインの時計に目が止まった。

オリジナルは Bell & Ross というメーカらしいが、日常腕に巻くのはご遠慮申し上げたいサイズとデザインでもあるし、当然ブランド品のオリジナルは手が出ない価格である。

腕に巻くなら、フォルティス(FORTIS)やジン(Sinn)にも、いっそ直球でブライトリング(Breitling)やレビュー・トーメン(Revue Thommen)など、いったい何のために時計を物色していたかという、当初の目的をつい忘れそうになるほど、その手のデザインには選択肢は多いのだ。(おっと、あぶねえ余談である)

クラシカルなプロペラ機に搭載されている計器類のようなその時計は iPhone 用の無料アプリもあり、しばらくは時間が表示されるだけの単純なアプリでお茶を濁していた。

そのアプリを眺めている時にふと思い出したのが、タグとの連名になる以前のホイヤーが、1960年代に製品化していたラリーマスターという、ストップウオッチとペアになった車載用計器だ。

当時、創刊間もないホリデーオートかなにかの車雑誌で見かけたラリーシーンの一幕を写した写真、黒い文字盤に白いインデックスとハンズで構成された、そのデザインに強く惹かれたものだ。

車はおろか、やっと単車の免許を取ろうかという高校生が、そんなものに興味を持ってどうするつもりだったのか、今となっては記憶の彼方だ。

だが、その後に気に入って購入した時計がセイコーのクロノやダイバーを筆頭に、全て黒文字版があしらわれたモデルばかりであることに、多少は影響を及ぼしているようにも思う。

で、件の時計その名も Bell & Ross ならぬ Bell•Air と刻印されており、パクリ元が一目で判別できるほどに開き直っている。もちろん、国産ムーブメント使用などと嘯いているが、製造元は中華であることは疑いの余地はない。

オリジナルの参考上代を考えると、およそ1/200 実売でさえ 1/100 以下というのは、時計業界ならではの価格差であるが、なんちゃってパテック・フィリップ(Patek Philippe)なども計算に入れたら 1/1,000 さえも夢では無い。(悪夢だな)

しかし、こちらが欲しいのはそのブランド名ではなく、視認性という純粋な外見上のデザインだけなんで、一概にパチモノだからといって否定できるものではない。

腕にするなら機械式の自動巻きでも問題ない(というか、むしろ電池式は鬱陶しい)が、車載用となるとミニの振動がいくらぱないといっても、時計のゼンマイを継続的に巻上げるほど激しくはないので電池式である。

車載の時計はその他のメータ類と同様に、前照灯と連動して照明がついているのが当たり前だが、自分で後付けする場合は、そのへんも考慮しないと夜は全く見えない。

したがって、iPhone 充電用に取付けた USB 電源から LED 照明を当てているが、元はノートパソコン用の手元照明として製品化されたものを流用しているので、当時流行の高輝度白色 LED であり、取付けた当初は全く雰囲気のカケラもない明るさと色である。  

これぢゃイカンとばかりに、古いハードディスクのアクセスランプに使用されていた、より暗い赤色 LED に換装したのだが、時計を強力両面テープでダッシュボードに固定した途端、購入時のサンプル電池と思しきものの寿命が尽きたと見えて、止まってしまった。

また、その電池も時計用として一般的な酸化銀電池(SR626SW)ではあるものの、およそ交換など想定していないかのような設計で、ムーブメントを壊さず交換するのは至難の技を要するなど、その紆余曲折は枚挙に暇がない程である。 

たかだが ¥1,980 の時計に、我ながら感心するほどの熱の入れようであるが、苦労の甲斐もあって戦闘態勢に入った潜水艦の司令室のような、怪しい雰囲気を醸しだしている。

機械的な精度などは望むべくも無く、ハンズの動きなどもムチャクチャ怪しい限りのパチモノだが、2千円程度でこれだけ遊べたらんだから、文句も言えまい。

時計が、機械式から現在の主流である水晶振動子を利用したクォーツに変わり始めた当時、巻かなくても振らなくても長期にわたって時を刻むことに、またその正確性にもろ手を上げて歓迎した業界である。

あれから40年以上経過しても、未だに正確性では劣る機械式時計が駆逐されたようには見えない。それどころか、当時の革命技術がもたらしたものは、今では百均ショップでも時計が買えることぐらいしか思いつかない。

かつて、一般が期待した正確な時間を知ることは、時計に頼ったとしてもさほど費用はかからないし、時間を知るだけなら他にも手段に事欠かない。そんな現代においても、拘りのある製品はその機構や方式、ましてや時間に関して純粋な正確性などとは、全く別の次元で生き残っているように見える。

ただ面白いとか、どうしても欲しいと感じて対価を払うものには、個人の価値観が大きく影響するので、興味の無い第三者がその価値を推し量るのは容易ではない。

たが、少なくとも stop2go のような時計に興味を惹かれる者が求めるのは、単純な時計としての正確性より優先順位が高いものが、他にあると思う。

もちろん、支払う対価に見合うだけの機械的な精度は必要だろうが、たかがクォーツ時計ごときに2万円以上払う気にさせるには、よほど強力な何かがなければ納得出来ない、と個人的には感じている。

それは、たとえば外見上のデザインや機能、ちょっと変わった秒針の動き方かもしれない。低価格で時間的な精度が実現できたら、購入者が次に求めるのは別の何かであることは間違いないのだ。

ま、ぶっちゃけ機械式腕時計の秒針なんぞは、時計が動いている(死んでいない)ことを識別するために存在すれば十分だと思っている。

現実に、日差±5秒程度の時計であれば週一合わせても最悪一分以上ズレることはないし、時計を合わせること自体、少しでも時計に関して興味がある者にとってさほど苦にもならない。

また、ただ単に現在の時間を知ることだけに限れば、昔と違って基準となる正確な時間を知る手段は他にいくらでもあることも、時計の正確性に対して大らかに構えることを可能にしている。

問題は、その時間が記録として残されるかどうかによって、求める精度や正確性にも多少異なった要求も出てくる。

SIGMA DP Merrill シリーズの内蔵クロックのいい加減さについては、何度か苦言を呈したこともある。だが、あいにく科学捜査班に身を置くわけでもないので、出掛ける前に合わせておけば、せめてその日ぐらいは数秒以内の誤差に収まってくれるなら、それ以上を望んでいるわけではない。

しかし、時計ほど頻繁に時間を確認出来ない(しない)カメラの内部機構だからこそ、またそれが一瞥して確認すればすむ腕時計や置き時計と違い、写真に記録され残るものなら、時計以上の精度や正確性は期待したいところである。

時計の精度が各段に向上した筈の現在においても、機器に内蔵されるクロックには期待を裏切るモノが少なくない。にもかかわらず、現時点でカメラ内蔵の時計の精度については、あまり問題視されているようには見えない。

いずれ iPhone のようにネットで同期をかける機能が、カメラにも搭載される時が来るかもしれないが、出来れば早期に実現して欲しい機能でもある。

そこで刻まれる時間については、今知りたいわけではない。それがはたして合っていたのかどうかも確認する手立ての無い、将来知りたくなるかもしれない時間だから、である。

モンディーンに託つけた、時計ネタの雑談でした。


…ということで、ヒトツよろしく。
2013年11月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2013.11.20] 時を知ること 〜より転載&加筆修正

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