2013年11月9日土曜日

柿の木、再び

11月になったら、柿を盗りに撮りに行こうと思っていた。

なかなか良い塩梅な廃れ具合の、納屋のような小屋の側にその木はある。

奇しくも5年前の今日撮ったのが最初であり、丸5年目になる昨日訪れてみたのである。

市町村合併によりかなり広範囲に拡がる岡山市だが、北区の某所にあるそこは、まるで時間が止まっているかのようだ。

詳しいことは知らないが、屋根瓦の形から建てられたのはおそらく昭和の初期か、ひょっとしたら戦後ではないかと思うので、見た目ほど古い物ではないかもしれない。

今年の6月に久しぶりに通りがかって、小屋共々いまだ健在であることは確認していた。

6月ではさすがに絵にならないので、この季節になって柿の実でも生ってからと考えていたのだが、期待通りというか、柿の実はそれ以上に実っており、すでに何個かは路上に落下した跡もあった。

当初、立ち寄ったのは午後いちで、何枚か撮って見たもののあまりにも日差しに風情がない。早々に切上げて、津山線沿線の風景でも撮りながら、夕方になってからもう一度と考え、その場を後にした。

しかし、景観と列車が上手くマッチングする撮影ポジションというのは、そう簡単に見つかるものではない。風景写真の技量というのは、そんな撮影ポジションを見つける能力こそが、大半を占めるのではないかという気もする。

また、あまり景観が良過ぎても観光地化されてしまうので、自分自身を撮る気にさせる範囲は意外と狭いのである。その上、極力近場で済ませようとする横着心も邪魔をして、なかなか結果に結びつかない。

このところ、新規導入の機材チェックも兼ねた撮影行が多く、写真そのものが目的になっていないことも影響している可能性はある。だが、それも楽しみの内なんで、どちらを優先するかは悩ましいところであり、余談である。

午後四時近くまで、久米南および赤磐周辺の山々を廻ってみたが、目を瞠るような紅葉にはお目にかかれなかった。(標高低過ぎてムリ)

そろそろ、日も傾いてきたので戻ろうとしたのだが、県道から奥深く林道へ入り込んでいたため、まともに方向も判らない。一応 iPhone のマップでおおよその位置は確認していたが、地図に載っていない細道も多くあるので、あまりあてにはならない。

とりあえず、感に頼って山を下りる方向へ向かったのだが、何時になく急坂に遭遇してしまい、かなり焦ったのである。大昔スキーを始めたばかりの頃に連れて行かれた、豪円山の最急斜面を思い出すぐらい(に見える)急な下りなんである。

あろうことか、幅 2.5m ほどしかないその道は、御丁重にも多くの落ち葉に覆われており、程よく湿っているっぽい。おそらく、過去何度も土砂崩れに見舞われたのだろう。よく見れば路肩だけでなく路面までも部分的にコンクリートで舗装されており、完全な未舗装路ではない。いっそ未舗装の方がマシなぐらいで、如何にもズルッと滑りそうな雰囲気満々である。

もちろん、路肩にはガードレールなど皆無で、大半のカーブの先には多くの木が茂っているものの、10メートル以上の落差はありそうだ。それも斜面などではなく、間違いなく絶壁である。途中でタイヤをロックさせたら、お終いであることは容易に想像できる。

1速のエンブレで恐る恐る下るのだが、それだけではとても減速出来ないほど坂が急なため、補助としてのブレーキは踏まねばならない。もう二度とこの道は通りません、と何度も心の中で念じながら、たぶん500mぐらいはこの悪夢が続いたのではないかと思う。

チビリそうになりながら、やっと途中にあった溜め池の堰堤までたどり着いて、車を止める。若い頃より、極度に緊張すると腰が痛くなるのだが、もちろんこの時も例外ではない。落ち着くために、カメラを取出し撮影をしてみるが、手が震えているのが分かるぐらいで、何枚かのブレ写真の原因はたぶん腰痛とそのせいに違いない。

ただ、撮影を始めてしばらくした後に、同じ道を軽トラの爺さんが、くわえタバコで隣の婆さんと談笑しながら結構な速度で通り過ぎていったのだが、…。慣れというものは、恐ろしい。

そんなこんなのすったもんだで、やっと戻って来てから撮った柿の木と廃屋、既に日は西の山に沈んでしまい、期待した晩秋の暖かみのある光は、望むべくもなかったのが残念である。


…ということで、ヒトツよろしく。
2013年11月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2013.11.09] 柿の木、再び 〜より転載&加筆修正

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