…と言った、舌の根も乾かぬうちに2月の定点観測である。
いや、まあどうしても出掛けざるを得ない雑用が出来たから、そのついでなんだが、せっかく岡山県南では珍しい雪景色が拝めるのに、大人しくしているわけにもいかない。
炬燵で丸くなる猫を見習っておくつもりだったが、庭を駆け回る犬になってしまったわけで、キリンビール2月号だ。
未明に積もり始めた雪も午後には溶け始め、路肩に残るバリバリの氷状態に成り果ててしまった。
当初、路面の雪が多いようなら、娘のジムニーを借りて万全の態勢で臨むつもりだった。だが、それらしいのは駐車場の周りだけでしかなく表通りは殆ど乾いていたので、ミニでも大丈夫だろうと高を括って出掛けたのである。
午後の早い時間なら天気も良かったのだが、雑用を済ませてから現地に向かったので、すでに陽は傾いて空模様も怪しくなりつつある時間である。
もちろん、街中は何も問題はなかったが、あまり車の往来がない撮影現場付近では、気温も低いせいか辺り一面が新雪状態だ。
いつもの撮影ポイントへ向かう、土手からの下り坂を降りている最中には全く意識していなかったが、考えてみれば帰りには、その坂を登らねばならないのである。
下まで降りてからそのことに気付いたのだが、今さら手ぶらで引き下がるわけにもいかない。帰りのことは帰りにに考えることにして、撮影を始めた。先月以来、久々に三脚を設置するが、手が悴んで中々思うようにいかない。
いつもなら、ちょっと待つことで雲も移動して青空になることもあるが、この日は風も弱く雲の動きも遅い。到着直後には、わずか日差しもあったが程なく曇り空になってしまい、期待した青空と雪景色の定点観測にはならなかった。
吹雪の中での撮影を強いられる心配はないようだが、絵的にはいっそ吹雪いてくれた方がマシになったかもしれない。
一時間ばかり粘ってみたが、天気はどちらにも変わりそうにないので、引上げることにして機材の撤収にかかったのだが、脳裏には果たしてあの坂を登りきれるのか、不安がよぎり始めている。
案の定、ノーマルタイヤでしかない前輪は 50cm ほど進んだところで空転を始め、坂道どころかその手前で、すでにスタック状態である。
たしか、トランクには冬場の山陰方面への出張に備えて、オートソックスという名の雪道用ネットが積んだまま、もう何年も肥やしになっている。
ここはひとつ、その効果を試す絶好のチャンスではないのか?
とも思ったが、一方では、いやいやこんな岡山市内のたかが田んぼからの脱出ごときに高価な靴下(その耐久性はあまり期待できないので、たぶん使い捨てだろう)を使うわけにはいくまい、などとケチ臭いことを考えている自分がいたのである。
何回か前後に揺すってやれば何とかなるだろうと考え、極力ゆるりとトルクを掛けながら、前進と後退を繰返してみる。
それにより、自ら空転によって作り出してしまったギャップの山を越えることは出来たが、坂道に差しかかるとまたもや停まってしまう。
こうなると、勢いで乗り切るしかないので、少し余計に後退して全力でアタックをかけることにした。
三歩進んで二歩さがる、人生はワンツーパンチだ。(なんのこっちゃ)
しかし、実際には2m下がって1.5mしか進んでいない。その結果、どんどんと下がっているのである。はて、どうしたものか。
先程から何度も、JAF のレッカー車が脳裏をかすめるが、それはであまりにもカッコがつかんだろう。
このところ、モチべを下げることばかりが多いので、ここをキッチリ自力で乗り越えられたら、ひょっとして何かが変わってくれはしまいかと、前向きに考えることにした。
出始めから勢いを付けようとしても無理があるので、今度は始めチョロチョロ中パッパ、で行くことにした。
じんわりトルクを掛ければ、坂道の手前まではどうにかたどり着ける。坂道へのアプローチを少しづつ変えながら、何度かトライしている内に、空転の度合いが少ない箇所が幾つかあることに気付いた。
そういえば、以前に来た時の状況を思い出してみると、今は雪の下に隠れて見えないが、雨の影響で縦に割れたような深い轍が、何箇所かあったように記憶している。
天気の良い時は、あえてその轍にタイヤが嵌り込まないように避けて通って来たんだが、いっそそこに嵌まってしまえば、タイヤのサイドウォールも接して摩擦係数が増えるに違いない。それが、登坂力に貢献してくれはしまいか。
この際、あんまり関係ないかもしれないが、急坂を登る鉄道にも、アプト式という線路の真ん中にギヤを噛まして、登坂力を稼ぐラック式鉄道の一種があったはずだ。
もちろん、ギヤとは全く比較にならんのであるが、溝に嵌まった状態の方が空転が少ないことは確かで、半クラッチ状態を微妙に調整することにより、僅かに空転しながらもちょっとづつ登って行けるのである。(秒速10cmぐらい?)
およそ10分ほどの悪戦苦闘の末、やっと登りきることができた。
ジムニーなら、たぶん何も考えずに無意識のうちに登りきっていただろうし、営業車のポロなら、まず脱出は不可能だったろう。
車重の軽いミニだからこそ、創意工夫と反復チャレンジによって、その辺りが何とかなりそうな、微妙なラインを提供していたと思う。
自力脱出できた土手の上からその道を振り返って見ると、何本ものタイヤ跡が彼方此方に向かって付いており、我ながら苦労の跡が偲ばれる。
これが何かのきっかけになるとは限らないが、僅か数メートルの距離とはいえ、諦めずにチャレンジした甲斐があったと思うのだ。
ま、県北の人里離れた林道や、前人未到の秘境であったなら、そんな悠長なことは言ってられないのであるが、なにせ趣も風情もあったもんではない、所詮市内の田んぼでしかない。
そんな状況でさえ、どこか楽しんでいる自分が、いと可笑しである。
…ということで、ヒトツよろしく。
2014年02月某日 Hexagon/Okayama, Japan
http://www.hexagon-tech.com/
[2014.02.09] 2月の定点観測 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく
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