2014年7月19日土曜日

スーパーいなばと因美線:其の壱

脱線復旧である。

なんとか、話を岡山駅まで戻そう。

まあ、脱線も転覆までしてしまうと、ナマコ程度では復旧も難しい。いったい、なんのことやらさっぱり分からんと思うが、ただの鉄オチなので気にしないで欲しい。

岡山駅といえば、機関区時代の脱線復旧を思い出す。

実家を追い出されて官舎住まいになった当時、官舎の家賃が半額になるという話を厚生課の連中から聞いた。

緊急呼出し要員に登録することがその条件だが、それが何を意味するのか考える間もなく、とにかく半額に惹かれて承諾した。

元が元なので、半額といってもわずかの差でしかないが、そうでなくとも清貧に追い討ちをかける、火事騒ぎの後始末に追われる日々だ。なんでも安くなるなら、魂を売ることさえ厭わない覚悟もあった。

その年の年末は、大晦日の一昼夜勤務を終えた後は非番と公休で、明けて3日まで勤務がない。久々に正月気分を味わっている真っ最中の、2日早朝に電話が鳴った。

岡山駅構内で脱線事故発生、直ちに現場へ急行せよという内容であり、はあ、なにそれ? …である。

現場へ到着すると、多くの同僚に混ざって、当日勤務だった仕業の連中の顔も見える。おいおい、まさか皆で機関車持ち上げるつもりぢゃねえよな、と思うほどの人数だ。

結局、現場責任者の指示に従い、鎖やジャッキ、ナマコやガス溶接のボンベを運んだことぐらいしか記憶になく、いったいどんな手順で復旧されたのかも分からないまま、夕方には作業も終了した。

翌月の給与明細には、ほんの僅かな特殊勤務手当てが付加されており、それが何よりも嬉しかったように記憶している。

で、こちらも復旧しよう。スーパーいなばと因美線:其の壱だ。

といっても、実はいつもの構成ができるほど材料はない。

本来、気分もキッチリ撮り鉄に切替えて行動するべきところであるが、不純物を多く含んだ非鉄金属の悲しさで、智頭駅到着まで写真を撮るのも忘れて遠足気分に終始してしまった、というお粗末である。

ま、iPhone による超適当ショットばかりでは、いつも以上にイマイチなので、そのへんは過去の却下写真でお茶を濁しておくことにする。だが、従来の外からの視点とは大きく異なる撮影環境、あらゆる意味で良い練習になったと思う。

最寄りの駅である備前西市から岡山へは、宇野線経由で 06:02 発の普通列車(518M)に乗れば、06:07 には岡山駅に到着する。だが、岡山発 06:14 普通列車(1300M)には、たった7分しか余裕がない。

備前西市の駅時刻表では、 瀬戸大橋線からの快速マリンライナー(3102M)が、それに先行して 05:39 に停車するようになっている。快速も、朝のダイヤでは妹尾以降の岡山寄りでは、各駅に停車するらしい。

岡山駅着が 05:45 なので、いくらなんでも 30分もあればなんとかなるべと考え、ついでに岡山駅構内がどうなっているのか、見聞もしてやろうという魂胆である。 

で、まあこれに乗って行くことにしたのだが、さすがに政令指定都市岡山 (^^) の表玄関である。朝っぱらから、人の多いこと多いこと。

案の定、岡山駅で智頭行きの乗車券を買う段になって、いきなり想定外のトラブルは発生するのである。

改札内にある乗車券売り場で、智頭までの乗車券と上郡から智頭までの特急券を所望したのであるが、その売場窓口の担当者(♀)が提示した金額は、4千円越えという途方もない料金である。

おいおい、智頭までの乗車券 2270円と智頭急行線の特急料金 420円の合計が、どういう計算で4千円台になるというのだ。仮に岡山から通しで特急に乗っても 3,870円にしかならないはずの料金である。

事前に調べてなけりゃ、そのままボッタクられていた可能性もある。知らずに払って鈍行に乗り、上郡で特急に乗り換えてから気付くという最悪のパターンだろう。

端末のタッチパネル液晶をしこたま叩いていたその担当者は、いかにも不貞腐れたような態度で、分厚い時刻表を取出し暫くにらめっこしていたかと思うと、何の説明もなく席を離れてしまう。

おいコラ、責任者を呼べ〜!と声を荒げて暴れてやろうかとも考えたが、ここはひとつ大人になって静観することにした。

後から調べると、どうやら全線通しでスーパーいなばの座席指定特急券を発行していたようだ。こちらがわざわざ、智・頭・ま・で・の・乗・車・券・と・上・郡・か・ら・智・頭・ま・で・の・特・急・券、と指定しているにも関わらず、である。

窓口をみれば、切符のやり取りの為の開口部はあるが、音声はダイレクトではなくマイクとスピーカに頼っているらしく、不明瞭な音質といくらかの雑音も聞き取れる。

距離にして、たった 50cm もないところでずいぶんと回りくどいシステムに見えるが、天井レベルまでガラスで仕切られたその形状から察するに、おそらく怒った客が暴れだした場合に備えてのことだろう。

ま、客が暴れだす原因を作らないよう、現場担当を教育する方が遙かに難易度が高いことは、その担当者の態度からも窺える。このあたりも、できれば外出を避けたくなる原因でもあり、公共の場というものは、かつての常識がだんだん通用しなくなっている気がする。

しばらくして、もちろん7分の余裕などでは到底足りない時間を経て出てきた男の担当者は、打って変わって平身低頭である。誠に申し訳ないが、上郡駅からの特急券は当駅では発券できないので、乗車後に搭乗している車掌に申し付けて欲しい、とのことである。

結局、智頭までの普通乗車券のみに切替えたのだが、その操作は代わった男の担当者が行い、本来の窓口担当(♀)は、その背後で如何にもわたしゃそんな例外処理は習ってないし、といわんばかりの態度で突っ立っているだけだ。

支払後も何の謝罪もなく、乗り場の案内すらしない。こちらも、そんな期待はしていないので、無言でその場を立ち去ったが、前途多難な行程の予感がする。

その値段に納得できるなら、本来は通しで素直にスーパーいなばに乗ることも吝かではない。だが、どうにも現行の料金体系には納得しかねる不条理な部分が多過ぎる上に、こんな顧客サービスでは、何が何でも余計な金は、ぜってえ払いたくない。

駅構内にコンビニが出来た話を聞いていたので、とりあえず珈琲とお茶に朝食を調達に向かう。たが、構内といってもあくまでも改札口の外であり、いちいち乗車券を見せながら、外へ出る必要がある。外の連中には、他にも多くの選択肢はあるだろうに、なんで中に作らないのだろうねえ。

早朝から利用客も多く、レジの前は長蛇の列だ。かつてホームにあった、まるで聖徳太子のようなマルチタスクをこなす、キヨスクのおばちゃんのような手際の良さはないが、これも時代の流れだろう。

ところで、思いつきとはいえ出掛ける前には、どういった機材を持ち出すかは考えていた。

今現在メインで使っているカメラバッグは、マンフロットのアミカ50型という、DP Merrill が2台プラスアルファの収納スペースを持つタイプと、ケースロジック(SLDC-203)の小型ビデオカメラ用のバッグで、こちらはDP Merrill が1台とビューファー程度なら入る。

鉄道を利用する時点で、時間を気にしながらの撮影になることは予想できる。3台全て持ち出しても意味はなさそうだし、ましてや三脚を展開できるパターンも限られるだろう。

そうなると、徹底的に身軽な方が良かろうと考え、今回は一脚(SIRUI P-326)のみ携行することにして、カメラもケースロジックに入れた1台に絞った。雲台も重たいシルイ(K-20X)から小型軽量のサンウェイフォト(FB-28i)に交換した。それでも、予備としての iPhone があれば、何とかなるはずだ。

2台なら、DP3M/DP1M の望遠広角のペアになるが、確認用のテストケースと割切って、DP2 Merrill の標準一本勝負に決めた。

スタートの岡山駅で、すでに件のドタバタだから、これは正解であったと思う。なんとか3番ホームへたどり着いた時には、もう姫路行普通列車(1300M)が入線してきたので、慌てて iPhone で撮った。

こちらも、コンビニ同様に利用客も予想以上に多く、いままで撮ってきた県北のローカル線とは全く趣が異なる慌ただしさである。

ま、あまりノンビリな行程は期待できそうにないことは、ほとんど空席もない、西市からのマリンライナーに乗った瞬間に分かった。

定刻通り、06:14 に岡山を発車した末期色クハ115系の先頭車両に陣取って、珈琲など啜りながら車窓を眺める。

各々のスマートフォンの画面を見せあいながら談笑する、遠方への通学と思しき高校生のグループ、ヘッドフォンを耳になにやら呟いている女子大生風の女の子など、この時間の列車の乗客は比較的平均年齢が若そうである。

そういえば定刻通りの運行なら、ぼちぼちサンライズエクスプレスが岡山に到着する時刻であり、高島を過ぎた辺りでそれを思い出した。

毎度お馴染の逆光であり、窓ガラス越しという悪条件も重なって大きな期待は出来まい。DP2M を取出すほどでもないので、ここは車窓から、カメラーモードにした iPhone を構えて待機する。

一本前を走る貨物列車があったはずなので、練習ショットのつもりで撮ってみたが、なかなかタイミングが難しい。いつもの、2倍の相対速度で通過するわけだから、無理もない。

それでも、なんとか早めのシャッタータイミングで先頭車両を捕まえることは出来たので、予告編として晒してみたわけである。

東方より朝日と共にやって来る、寝台特急サンライズエクスプレス。その名に違わず相変わらずの逆光だが、コイツの場合は、まあ致し方なしなんである。

上郡到着まで、山陽本線の撮影ポイントとして良い場所はないものかと車窓から見回してみる。だが、景観の良さそうな所は、たいていは道路よりかなり高いところを通っているので、登山を覚悟しなければどうも無理っぽい。

1時間近い行程も、あっという間に過ぎて上郡駅に到着した時には、天気も良くかなり暑くなりそうな空模様だ。ホームに下り立ってみると、智頭急行の建物が岡山寄りの遙か彼方にかすかに見える。

とりあえず、特急券を調達するべくとぼとぼ歩いていくのだが、その先には HOT3500 の姿もあり、その昔大元駅から乗換えの岡山臨港鉄道を思い出す。

前回、外から眺めた智頭駅でも感じたのだが、相互乗り入れとはいえ、首都圏のような利用客に対する利便性はあまり優先されていないようだ。JR西日本の邪魔にならぬよう、遠慮したかのように見えるその乗り場の配置からも、いまだ国鉄時代の不遜さが見え隠れする。

例の特急券のゴタゴタも考えると、国鉄分割民営化後の27年間にはいったい何が改善されたのか大いに疑問である。数ある私鉄会社の一員に過ぎない現在においても、まるで払拭されていないように感じる。

ま、そんなこたあどうでも良い。滅多に利用しない者がエラそうに説教めいたことを言っても、何も始まらない。

とりあえず、智頭急行線の特急料金 420円を払って、スーパーいなば1号の入線を待ったのである。自由席は、先頭車両一号車のはずだ。

ん、待てよ、上郡でスイッチバックするんぢゃなかったっけ?


あちゃ〜、…つづく。


…ということで、ヒトツよろしく。
2014年07月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.07.19] スーパーいなばと因美線:其の壱 〜より転載&加筆修正

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