2014年9月14日日曜日

因美線リベンジ:後編

九月に入った途端、もう秋に突入したような気候だ。

折角、良い気候となってきたのに、今月に入ってまだ一度しか写真が撮れていない。それも、序での序でに過ぎないもので、イマイチ盛り上がりに欠ける。

天候も不順な先月は、よせばいいのに何度も不毛なチャレンジをしたせいか、少々撮影意欲も減退気味である。

お世辞にも使い勝手が良いとは言えない、シグマ謹製のソフトでその上、枚数ばかり多くあまり内容が無いせいで、これはもう現像疲れかもしれないな。

iPhone 6 やら dp1 Quattro やら、何かと人心を惑わせる事柄も多い今日この頃。

こんな時は何か新しい機材など、写真に対するモチベを高める、刺激が欲しくなるものだ。

不本意ながら、そんな贅沢は言ってられないので、撮り合えず因美線リベンジの後編である。


被写体に対する、何の予備知識もなく訪れることが多いので、その大半はいざ現像する段階になってから、慌てて調べるようなことも少なくない。

それでも、事前に多少興味が湧くような情報から目的地を定めることもあり、それによって経路や優先順位も、多少変わってくる。

美作加茂駅から、知和駅へ向かう旧道で少し余計に時間を食ってしまった。別に急ぐ必要もないのだが、前回見逃してしまった、例の転車台のある美作河井が懸案事項となっている。

前回の列車内からの撮影でも、駅名標ぐらいしか撮れていない知和駅であったが、駅舎の正面から適当に撮っておけばよかろうと考えていたのである。

事前に調べたネットの情報では、駅舎自体は古い(開業は昭和6年)ものの、前述の高野駅と同様に、ふんだんにアルミサッシが使われた改修が為されている写真が掲載されている。

少なくとも、ここ2〜3年の間に訪れた方々が公開されている写真では、アルミないしは、木枠でもいかにも新し気な材料を使って改修が行われているように見える。

年に何度か行われるイベント列車なども通過してしまう駅なので、まあそんなものだろうと、…。

ところが、実際に訪れてみると、少々様子が違うのである。そこには、まことに味わい深い駅舎が待ち受けていたのだ。

建物と同様に古びた窓枠に、なぜか戻っているのだが、周辺には観光地らしき物は皆無だし、此処数年の1日平均乗車人員も一桁である。したがって、地域を挙げての何か興しみたいなものも考えにくい。

だいたい、仮にアルミから木枠に戻したとしても、たった数年であのような古びて廃れた感じにはならないと思うのだ。

いったい何が起こったのか、どんな技が使われたのか、ひょっとして此処へ来る途中の何処かで、時空のポケットにでも落ちたのではないか、…んなわきゃねえよな。

改札付近の壁面が傷んで、崩れかけている写真も見受けられたが、それも奇麗に修復されており、このあたりも事前の情報とは大きく異なる。

棒状一線式で、こぢんまりとした構造のわりには、駅舎とホームの位置関係も、なかなかチャーミングなレイアウトである。

駅舎内も、観光客向けに写真や資料、ポスターなどが所狭しと貼られた他の駅と異なり、あくまでもさりげなく侘・寂感が演出されて、清掃も行き届いている。

駅周辺には、商業施設は皆無であり、わずかに住宅が点在するのみで、非常に落ち着いた雰囲気である。

今回巡った駅ではダントツで、姫新線の岩山駅と並ぶ個人的なお気に入り駅となった、不思議な知和駅である。

そんな、知和駅を後にしたのはもう昼前である。県道6号線を峠に向かって登っていくと、美作河井駅の手前に松𡵅(まつぼうき)橋梁がある。

広角では、なかなかそれらしく捉えるのが難しいが、撮影ポイントを工夫して列車が上手く収まれば、結構絵になる橋梁ではないかと思った。

しかし、次の列車通過まではかなり時間もあるし、そろそろ腹も減ってきたので iPhone による撮影で済ませてしまった。

美作河井駅は、因美線の岡山県側の最後の駅であり、県内の路線では最北端に位置している。

かつては、島式ホームと留置線を有する駅だったので、駅舎とホームの間には現在使われていない線路が、改札口に近いところにある。

駅舎自体はホームより低い位置にあって、レイアウトとしては姫新線の林野駅に近い。ただ、林野とは全く異なる長閑な山の中にあるので、周りの景観を含めた雰囲気はこちらの方が当然良い。

しかし、前の知和駅もそうだが、なぜか屋根には瓦が葺かれておらず、少し見窄らしい感じに見えるのが惜しいところだ。

知和の駅舎は、見るからに劣化が進んで、ヘタすると瓦の重みに絶えられない可能性もあるので、何らかの対策が必要なのかもしれない。

開業は、知和と同様に昭和6年頃だが、こちらの修復には、窓枠などアルミサッシが使われている。どこの駅も雰囲気のあるところは、あたりまえだが順当に劣化しており、台風など災害の影響を受けやすいのが心配の種である。

特に、年間を通して県北の気候変動は、県南に住む者からは考えられないほど厳しい。山間部の雨の降り方などは、平野部のそれとは比較にならないほどの迫力がある。冬場の積雪もぱない量だし、風雨などに対する耐性は一般家屋に比べても、それほど高いとは思えない。

駅の価値が何かによるが、修復費用のコストダウンは、文字通り価値の低下に外ならない。だが、所詮外からのエゴでもあるし、元も子も無くしては意味がない。

願わくば、少しでも長く持ちこたえて欲しいので、出来る範囲の努力目標程度で、構わんような気もしている。

実際アルミアルミと、毛嫌いするのもどうかと思うところもないではない。

今でこそ、レトロな風合いと不釣り合いに見える金属色だが、アルミサッシが台頭してきた昭和中期頃を思い出してみれば、さほど違和感もなかった。

違和感どころか、 木造家屋にアルミサッシという組合せは、昭和40年頃のごく一般的な風景だった。建て付けの悪くなった木製の窓枠をアルミに替えるのは、当時のトレンドであり時代の最先端でだったはずだ。

一概にレトロ感覚といっても、どの時代が好きかにもよるので、人によってはそのあたりも多少の違いがあっても不思議ではない。要は、コーディネイトの問題だろうと思う。

新しいモノもいずれそれが当たり前になってしまえば、それによって無くなったモノの方に、懐かしさを感じるのも人情である。特に、高度成長期やバブルの頃は、得たものと失ったものが、双方共に多い時代だった。

実用本位だけで考えれば、その時代に合わせた改修も必要だが、肝心の実用の部分が失われてしまうと、そこに残るのは中途半端な機能性だけで、そこはかとない虚しさも感じる。

ここ最近の自動車では、LED がそんなに嬉しいのかという、ランプ周りのデザインを見るにつけ、そんな思いに行きあたる。

本来電球に代わる、省電力長寿命がウリの高輝度 LED も自動車業界においては、それが LED であること自体をウリにしたい、業界の間抜けさが垣間見える。

特にテールランプの機能としては、視認性だけでなく背後の運転者が被る眩惑など、そのデメリットにも配慮したデザインが為されるべきであろうと考えるが、いったいあの連中がそれに気付くのはいつになることやら。

コンピュータ周辺機器では、一時猫も杓子も、あの寒々しい青色 LED ばかりで埋め尽くされた時期があったことも記憶に新しいが、もうすでに安物の代名詞となった感さえあるぐらいだ。

ぶっちゃけ、本気で大嫌いな青色 LED、というより青い光自体に嫌悪感を抱いているのだが、さすがにアップルもインジケータは白色までで、青色を採用した機器はない(たぶん)。

その点だけは、褒めてやっても良いと思っているが、そんなモノでさえ、いつかは懐かしく思えるのかもしれない。ま、アルミサッシも LED も今から2千年ほど後には、文化遺産に登録される可能性も無いとはいえまい。…余談である。

件の転車台は、ホームの津山寄りの先にあって、2007年に発掘されるまでは地中に埋没していたらしい。現在では、立派な案内板も建てられ、周りはロープが張られている。

背後には、標高756mの矢筈山(やはずやま)があり、美作・矢筈城という城跡の看板も建っている。転車台の周りには、石積みの跡も見受けられるが、これは鉄道施設の一部だったのか、城跡絡みの遺跡なのかは不明だ。

コンビニ調達の弁当で昼食を済ませた頃、美作河井駅12:15 着(678D)がやって来た。

案の定とというか予想通りでもあるが、絵的にはあまり様になっているとは言い難いキハ120である。イベント列車では、専らキハ40•47 が使用されるのも、そのあたりに配慮した結果だろう。

だが、どうもそのようなイベントには参加する気にはなれないので、ひねくれ者に撮れる写真には、限界があるのは間違いない。

ちなみに、弁当を調達したコンビニはこの近所ではないことを付け加えておく。

とにかく、自分で持込まない限りは、何も手に入らない可能性が高い地域であることを常に考えておいた方が良かろうと思う。

物見峠を越えて鳥取県に入る道は、部分的には林道に近い過酷さもあって、落石や崖崩れによる工事中区間も、決して珍しくはない。

単に、智頭方面を目指すなら、素直に国道53号線を北上し黒尾峠を越えるのが無難である。

この日も、予定していた那岐駅ヘ向かう県道295号線は、県道6号線との分岐点であたりで工事中となっており、通行止めであった。止むなく、そのまま智頭方面へ向かって下っていったので、鳥取県側の駅は路線の順番と逆になってしまった。

前回もその前も通った智頭駅は、スルーする予定だったがたまたまスーパーはくと(HOT7000)が停まっていたので、構内まで入ってみた。

それまでの癖で、つい改札を通過しようとしたが、ここは無人駅では無かったことを完全に失念しており、駅員に注意されてしまったのはご愛嬌である。

近くで見ると、スーパーはくとも意外に簡素な作りで、たぶんスーパーいなばに乗って感じた、特急列車に対する違和感と、共通するものがあるのかもしれない。

智頭から津山方面に向けて、国道53号線を戻る道中に土師駅とその先の那岐駅がある。

どちらも、国道からわずかに県道へ入ったところにあるが、那岐駅から続く道は、例の通行止めな県道295号線に繋がっている。

というか、那岐駅自体が県道295号線の終点であり、西宇塚那岐停車場線というのが県道の正式名称らしい。

基本的に、同じ道を通ったり逆戻りすることが好きでないので、何とか前に向いて進もうとする悪い癖がある。

土師駅と違い、国道から暫く離れて山ヘ向かっている那岐駅から、そのまま津山方面に向いて国道へ戻るのは一苦労である。国道53号線も既に山越えのために、かなり高くなっているところへ、戻らねばならない。

結果、おいおいこの道だいぢょうぶかあ、と思うほど狭く急な坂道を通るはめになるので、あえてお勧めはしないルートではある。

オフロードバイクの林道ツーリングなら、まあ普通かなという程度だが、我ミニも取り立ててモンテカルロラリー仕様、というわけでもない。

ま、いつも気分だけはアルトーネンで立ち向かうのだが、車の仕様だけでなく肝心の技量が伴わないので、それにより後悔することも少なくないのである。

で、そんな鳥取県側の2つの駅、まずは土師駅である。

行政区分による岡山県では、先程の美作河井駅が最北端であるが、JR 西日本の括りでいうところの、岡山支社管内では最北の駅はこの土師駅だそうだ。

会社が違うと、何かとややこしいのは、どこの境界線にも共通するところだ。

残念ながら、姫新線の坪井駅に似ている土師駅にも駅舎はなく、小さな待合がポツンとあるだけの停車場で、かつての木造駅舎は解体されて10年以上になるらしい。

ネットで検索しても出てくる画像はあまり撮影意欲をそそる建物ではないので、まいっかである。

那岐駅の方は、天気も良くなって晴れてきたので、その赤い屋根が目にも眩しい絵柄となった。

駅舎は、現在では診療所として使用されているらしく、それなりに手がかけられているようだ。駅構造は、交換線も有する2面2線の相対式ホームで、斜面に位置するため、駅舎に対してかなり高いところにある。

ホームへ上がる階段も、今まで見た駅の中では最も長い。その途中には、昔の写真も掲示され、一応観光も意識しているようだ。

ホームへ上がると、姫新線富原駅にあるものと似た、第四種駅名標らしきものも残っている。

だが、こちらの対面ホームは現在も現役であるので、待合所などは最近建てられた、といってもそんなにあたらしくもないのだが、色々な年代が入り交じった、いわゆる普通の景観である。

この季節、線路内の雑草はどこも生え放題で、部分的には線路を隠してしまうほどに鬱蒼としており、いやが上にも侘びしさを助長する。

そういう意味では、あまりピーカンの真っ昼間よりは夕暮れか、雨の日の方が絵柄もマシになったかもしれない。いっそ、地域的には真冬で雪の中などがそれらしいのだろうが、撮影者の方にそんな根性はない。

また、日帰りとはいえ、帰路を考えると相当な距離もあるため、あまり日暮れまで粘る体力もない。午後2時を回る頃には、帰りのことも脳裏をかすめる時間である。

てなことを考えながらも、実際は天気が良くなったせいで、帰りがけの駄賃に定点観測の現場にこの日再び、寄ってみたりもしているのだ。

そっちの方は、前回の8月の定点観測に混ぜ込んだのだが、期待した程ではなかったのはご承知の通り。

まあ、そんなこんなでなんとかまとめてみた、因美線リベンジである。

田舎のローカル線を訪ねていると、どうしても客観的な視点に徹することが難しい。その地域の暮らしぶりなどに興味が湧いて、つい余計な御託を並べてしまう。

勝手な想像による、大きなお世話でしかないことは十分理解しているつもりだが、ごくごく私的な感想に過ぎないので、軽く聞き流して貰うしかないのである。

それにしても、翌週には例のサンライズ出雲の撮直しに出掛けたりと、結構アクティブに飛び回った感もある八月だった。

サンライズ出雲も、必ずしも期待通りではなかったが、その後挫けることなく、そのまま米子まで足を延ばしている。

いずれ早いうちに、そちらも公開しようと考えている。


…ということで、次回もヒトツよろしく。
2014年09月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2014.09.14] 因美線リベンジ:後編 〜より転載&加筆修正
なお、本家には余談と写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

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