2013年9月9日月曜日

鉄道写真の実践(実戦?)

我家に現存する父の古いアルバムの中にも、あれほど大量にあった資料画像としての鉄道関係の写真は、発掘できていない。

風景や鉄道の写真は少なく、人物が中心である。旅行やイベントなどにおいての家族や友人、親戚を始めとして、およそ人が写っていない写真は皆無である。親子で真逆の写真趣味というのも、おかしなものだ。

おそらくアルバムには貼っていない、または貼るわけにはいかない写真というのも相当数あるはずで、あまりツッコまない方が無難であろう。

なにかとプライバシー問題が取りざたされる昨今とは違って、当時はカメラを構えたら迷惑がられるどころか、全く無関係な人までが勝手に寄ってきた時代である。

撮影者によほど景色だけを撮るという気構えでもないかぎり、昔の写真にはとにかく人が良く写っている。人を撮ることがデフォルトなんである。

で、そんな父の資料画像のことを思い出しているうちに、撮り鉄でもないのにちょっと真似事がしたくなって、やってみた。

ええ、やってみましたとも。で、その結果はといえば…。


先日訪れた伯備線沿線では、渓流写真のついでであったため、積極的に鉄道関係の写真を撮るつもりはなかった。せいぜい、鄙びた駅舎や風景の中に線路や鉄橋があれば、それでよかったんである。

しかし、帰ってそれらの写真を現像しているうちに、その風景に列車が写っていないことに物足りなさを感じ、もっとちゃんと撮っておけばよかったと後悔したのである。

だって、ロクに下調べもせず適当に撮っているもんだから、とつぜん特急がやって来たりしてあわててシャッターを押すという、およそ鉄オタから見たら言語道断以ての外な撮影姿勢である。

鉄道関係の写真を撮るなら撮るで、それなりに姿勢を正して臨むことが必要だ思うが、所詮半端な知識が頼りでは、やはりそれなりでしかない。

それでも、かつてと違い今は情報社会である。そこそこな田舎道でもマメにグーグルカーが撮影している情報を頼りに、マシな撮影スポットを探すのはさほど苦労はしない。ただ、情報の古さや撮影された季節によっては、似ても似つかない場所になっていることはよくある。

したがって、事前のロケハンは必修となるだろうことはある程度予想していたので、まずは近隣の路線から攻めることにした。

とはいえ、岡山駅周辺の衆目環視の中で撮影を敢行する度胸はないので、極力郊外の、それも風景撮影の一環として成り立ちそうな景観を前提として、画策してみたのである。

とりあえず、ターゲットにしたのはサンライズ瀬戸・出雲という西日本では唯一の存在となってしまった寝台特急(285系直流寝台電車)である。 

もう少し難易度の低い、ローカル列車で十分に練習を積んでからにすりゃあいいのに、と思わなくもなかったのだが、どうせ撮るならやっぱ別嬪がよかろうというスケベ根性と、たかが電車の写真とナメてかかっていたことも事実である。

先日の、県北遠征ではわりと頻繁に遭遇した伯備のやくもと違い、一発勝負なので上手く撮れるか不安はあった。

ま、実際毎日運行されているので、厳密には一発ではない。明日も明後日も走っているので、適当に待っていれば向こうから勝手にやって来るんである。

などとお気楽に考え、運行状況という最後の詰を疎かに臨んだものだから、初日は坊主であった。

前日の大雨で発生した、伯備線沿線の土砂崩れの影響を受けて運休となっていたことも知らずに、バカが熊山あたりの吉井川の土手で日の出前から待ちぼうけを喰らう、という間抜けぶりである。

ただ泣きながら帰るのも悔しいんで、その足で隣の万富駅近くのキリンビールを撮って帰ったのだが、そんな日はあらゆる失敗を犯すフラグでも立っているのだろう。ほぼ、すべての写真で水平レベルをミスっていた。

それでも、DTP にする気にさせる1枚があったことが、せめてもの慰めであり救いとなった。それが、翌日の即リベンジにもつながった訳で…、余談である。

決して、事前の調査を怠ったわけではない。サンライズ瀬戸・出雲についてはネットで詳細を調べ、過去に撮影された先達の写真も参考にした。

それにより、瀬戸と出雲の各7両編成は、始発の東京からは連結され一編成として岡山駅まで運行することや、上りは岡山付近の通過が夜遅くなることから、早朝に岡山を経由する下りをターゲットとするしかないことは、早い段階でわかっていた。

だが、分割された7両編成ではちと寂しいので、できれば14両編成を撮影したい。そのためには瀬戸と出雲が切り離される、岡山駅手前で捕まえる必要がある。

また季節柄、日の出の時刻(9月5日現在、05時40分)を考慮すると、十分な光量を確保するには午前6時以降に通過する場所が望ましい。昇って間もない朝日の逆光の影響を受けにくい角度と、景観もそれなりの場所でとなれば、ある程度限られてくる。

ましてや、初夏ならまだしも日の出の時刻はこれから冬至に向かってどんどん遅くなるので、年内で残された時間はそれほど長くないのである。

姫路着が 05時25分、26分に発車して岡山到着が 06時27分であることから、この1時間が勝負である。おそらく和気、熊山、万富、瀬戸、上道あたりまでが狙い目だろう。加えて、当日の天候と空模様が…、などと考えれば考えるほど頭が痛くなるばかりである。

ま、ダメならまた来年撮ればいいだけのことであるが、この手のパッションは内なる炎が熱いうちに実行しないと面白くないし、そんな思いつきな熱意がそう長く続かないことは、過去何度も経験済みだ。

前日の惨劇に懲りもせず、リベンジは早い方が良かろうと翌日にも出掛けたのだが、我ながらモチベの高さに驚いている。

なにせ、動くモノが相手であるのでやり直しはきかない。連チャン二度目となる当日は、DP1 & DP3 Merrill に加えて、動画用に iPhone まで動員した3台体制で臨んだ。

予定時刻前に、何本か通過する貨物列車や鈍行電車で予行演習はしてみるものの、刻々と変化する明るさの中ではあまり参考にならない。日の出直後の明るさと動く相手では、DP Merrill のオートフォーカスはあてにできないので、マニュアルによる置きピンで対応することにした。

予定時刻よりかなり早めに撮影準備を終え、頭の中では万全の体制と考えていたが、ここで最初の問題が発生した。バッテリーである。

普段のデフォルト設定は、1分で液晶が消え5分で電源がオフになる設定にしている。消えている最中に列車が現れて慌てることのないように、何分かおきにシャッターボタンを半押ししながら電源がオフにならぬようにしていたのだが、そのせいでいつもより早く1本目のバッテリーが警告を発した。

今度こそ事前に運行状況も調べて、正常運転を確認したにもかかわらず、待てど暮せど一向に現れない。またもや、なにかチョンボをやらかしたのか、と我が身を怨めしく思った。

すでに時計は、当初予想した通過時刻(概ね 06時05 分から 10分の間だろうと踏んでいた)を過ぎ、06時20 分を回っている。幾ら特急とはいえ7分かそこらで、熊山〜岡山はぜってえムリだろうという時刻である。

ネットで調べようにも、本日は iPhone 5 も動画用スタッフとして参加しており、三脚上でせっかく決めた撮影アングルを崩したくはない。

だが、このまま理由がわからぬまま、前日と同じ間抜けぶりを晒すわけにもいかないので、iPhone で状況を検索してみた。が、その時点では正常運行という情報以外にはひっかかってこない。

在来線など、国鉄時代からしょっちゅう遅れはあったという事実は、この時すっかり頭の中から欠落している。まるで、初めてのデートで焦っているお坊ちゃま状態である。

案の定、再度三脚に設置しているその真っ最中 06時22分を過ぎたころ、唐突にヤツは現れたのである。

うわ、ほんまに来やがったぜい。(って、待ってたんぢゃないのか)

列車の先頭車両が視界に入ると、いやが上にも緊張が高まる。実際写真撮影で、こんなに緊張したことはかつて経験がない。前照灯がやけに眩しく、手が震えているのもハッキリと分かる。

アドレナリンが沸き立つような、ある種快感にも思えるほどの興奮状態である。その後の慌てぶりは筆舌に尽くし難く、書くのが嫌になるほどだ。

iPhone はあらぬ方向にずれたままだが、もう修正する暇はない。

震える手で、メインの DP3 Merrill のシャッターボタンに触れ、液晶を点灯し HE-3XA を覗き込む。

おいおい、岡山まであと5分で行けるんか〜、などと呟きながら努めて冷静になろうとするが、自分の鼓動が聞こえてくる。

左手の手探りでサブの DP1 Merrill もスリープを解除するが、この際ノーファインダで行くしかない。画角が広いので、ちょっとディレイで押せばフレームには十分入るだろう。

タイミングを考えたらオートブラケットではセカンドチャンスは無いので、珍しく両方とも単写モードである。7枚バッファでなんとかなるはずだが、はたしてシャッターのタイムラグがどの程度か。

まず、遠景で1枚撮る。続いて即座に DP1 Merrill も左手でシャッターを押すが、確認はできない。一脚に載せたまま、洗濯ばさみで連結しているだけな事実を忘れ、手荒にシャッターを押したのでブレたかも。

そして、DP3 Merrill の右手の人さし指に、全神経を集中させる。

事前にマニュアルフォーカスにより置きピンしている、「上48」の札がある電柱を通過したら、…。

その後、 DP1 Merrill のシャッターを一体いつ押したのか、押さなかったのかも覚えていない。

腰が抜けたようにその場にしゃがみ込んでしまい、予定していた動画はおろか、後ろ姿の後追いショットも全く撮れていない。へこたったままで、思わず叫んだのである。

「よっしゃあ、撮ったぞ〜!!」と。

帰って現像してみた結果は、大方の予想通り惨憺たるモノであり、やっぱそんなに甘くないということを痛感した。

現時点で判明した問題点は、以下のようになる。

まず第1に、特急電車は直線区間では意外と速いので、せめて f4.0 1/250秒、できれば f5.6 1/500秒 が欲しい。しかし、日の出直後の明るさでは開放から2段も絞って被写界深度を稼ごうなどという贅沢は、ノクチやノクトンでもないかぎり無理な相談である。

だが、 f2.8 または、ISO200 なら 1/250秒、その両方なら 1/500秒も可能であったはずなので、これはもう機材の問題ではない。(ただ、列車撮影を開放でというのは、どうなんだろうね)

となれば、曲線区間で減速する場所ということになる。次は砂川の土手の上あたりから狙ってみるか、などと今更のように考えているが、事前に現地の状況を確認しておく必要はある。

第2に、苦手な高感度をカバーする、モノクロ写真の可能性も考慮する必要がある。光量の関係から、コントラストも期待できないし、色再現に拘るよりは明暗で勝負するのも一興かと思う。

サンライズ瀬戸・出雲のカラーリングが、ネットで見受ける写真に比べてあまり実物があまりパッとしないことも、そのような思いに至る要因である。

第3に、カラーにこだわるのであれば、背景となる景観も重要な要素となる。したがって、14両編成を諦めてもう少し日の高くなる時刻に、伯備線または瀬戸大橋線で捕まえることも考慮した方が無難かもしれない。

加えて、複線区間では電柱が両サイドにあり邪魔になるので、単線区間の方が絵的に有利だろう。特に下り列車の右側面の絵を撮ろうとすると、左(奥側)の線路を走行するので距離的にも遠くなる。

だいたい、14両編成に拘った割に14両目がいったいどのあたりにくるのかという情報もないまま、フレーミングを決めているんだから、いい加減にも程がある。

また、DP1 Merrill を今回予備として使用したが、本来広角の撮影位置はもっと前方で線路よりか、もっと深い角度で風景メインで撮るべきだろう。 せめて、DP2 Merrill ならもう少し…、いやいやいや。

いずれにしても、ネットの情報だけでなく現実世界で線路のある風景を撮影し、要するに場数を踏まなければ最終的なレベルが上がるまい、という当たり前な結論に行き着くのである。

この手の撮影に最も向いていない、SIGMA DP Merrill で臨もうということ自体が間違いであることは、端っから分かり切っていることだが、重要なのはあくまでも挑戦でありチャレンジャー精神なんである。

画質を多少犠牲にしてでも高感度と速写性に勝る E-620 の出番も考えたが、そのレンズはオマケのキットレンズに過ぎず、このような状況では、開放で F4.0 などお呼びでないことは分かり切っている。(でも、ためしにやってみようかな…)

前々回の高価なレンズなど意味がない発言が、こうも簡単に否定されるのは悔しいんで、なにがなんでも SIGMA DP Merrill で勝負しようという姿勢は崩すわけにはいかない。

今回の反省材料は他にも多くあり、次回が何時になるかは不明である。ショックから立ち直り次第再度挑戦したいと考えているが、被写体として興味深い題材が一つ増えたことと、それ以上に風景撮影では忘れがちな、シャッターを押す時の緊張感を思い出せただけでも収穫だろう。

撮り鉄の熟練者達から見れば、ほとんどお笑い草でしかない今回の撮影顛末である。

だが、そんな彼らにも、初めて撮った時の興奮と快感、または大失敗による失意のドン底、忘れてしまいたい暗い過去などを思い出させることが出来れば、この上なく幸いである。

う〜む、撮り鉄連中の苦労が偲ばれるなあ。



…ということで、ヒトツよろしく。
2013年09月某日 Hexagon/Okayama, Japan

http://www.hexagon-tech.com/
[2013.09.09] 鉄道写真の実践(実戦?) 〜より転載&加筆修正
なお、本家には写真も多数貼ってあるので、こちらもヒトツよろしく

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